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新刊図鑑で新しい標準和名を提唱<オオメハタ科>はどんな魚? 日本に生息する2属を紹介

2024年12月に出た書籍『日本の深海魚図鑑』において、新しい標準和名が提唱された科があります。

それがオオメハタ科です。この科は従来ホタルジャコ科に含まれていたものですが、近年は別科とされることが多かったものです。

しかしながら科の標準和名がなく、学名のカタカナ転写などが行われていましたが、今回ようやく科の標準和名がついたのでした。

なお、「オオメハタ科」という名前ではありますが、ハタ科の魚ではありません(ただし古い図鑑ではハタ科ないしスズキ科とされていたことも)。またオオメハタ科のうちいくつかの種は「白むつ」と呼ばれたり、バケムツのように名前に「むつ」とつく魚がいますが、ムツ科の魚でもありません。

では、オオメハタ科の魚はどんな特徴を持っているのでしょうか?

図鑑内で初めて「科の標準和名」が名付けられる

2024年の暮れに出た『日本の深海魚図鑑』(岡本 誠・本村浩之(2024)、山と溪谷社)はいま大人気の図鑑です。

人気の理由はなんといってもその美しい写真。従来の深海魚が掲載されている図鑑では残念ながら色あせているものや、標本写真で生鮮時の色がわからないという欠点もあったのですが、この本ではフレッシュな深海魚の写真が多数掲載されています。

その中には、カラー写真がはじめて掲載される種もおり、大きな見どころとなっています。

初めて標準和名がつけられる

そしてこの図鑑の見どころはもうひとつ。この図鑑では、これまで標準和名がなかった科、Malakichthyidaeに標準和名がつけられたのでした。

図鑑の中で種や属、科などの分類単位に新しい標準和名が提唱されることは時々見られる事例です。

たとえば、2013年の『日本産魚類検索 全種の同定 第三版』(中坊徹次(2013)、東海大学出版会/以下「魚類検索」と略す)の中では、ムナビレハダカエソ科、ザラアンコウ科、キバアンコウ科、メバル科に新しい科の標準和名が与えられたほか、これまですでに記載されているが“標準和名無しさん”であった多数の属・種に標準和名が与えられました (例:フタオビミナミヒメジ、ホウキボシテンス、スミゾメハナハゼ、など多数)。

ちなみに、図鑑の中で新種記載がおこなわれるということは少なく、通常は査読付き論文の中で新種記載されます。

しかし従来は、日本の魚類図鑑においても『魚類図鑑 南日本の沿岸魚』(益田一、荒賀忠一、吉野哲夫(1980)、東海大学出版会)という図鑑の中でベニスズキやハタタテハナダイ、タヌキベラといった魚が新種記載されたということもありました。

分割されたホタルジャコ科

『日本産魚類検索第三版』でホタルジャコ科とされた魚の帰属(提供:椎名まさと)

2013年に出た魚類検索においてはホタルジャコ科Acropomatidaeの中にはスミクイウオ属(のちにヒメスミクイウオ属が分割される)、ホタルジャコ属、バケムツ属、アカムツ属、オオメハタ属の5属が掲載されていました。

しかし近年になって遺伝子データをもとにした系統解析を行った結果、スミクイウオ属およびヒメスミクイウオ属が2018年以降Synagropidae(当時科の和名なし)という科に分類されるようになりました。

Synagropidaeの標準和名は提唱されず、2021年に九州の日向灘からバケスミクイウオとサラシヒメスミクイウオが報告された際にスミクイウオ科という標準和名が提唱されました。

ちなみにサラシヒメスミクイウオという種は日本で採集された個体をもとに新種記載されたのですが、この種外国人により記載されたもので、標準和名がついておらず(新種記載を行う際、著者の中に日本人がいれば、標準和名の提唱もされることが多い)、この報告の中で標準和名がつけられました。

オオメハタ属およびバケムツ属も新科Malakichthyidaeに含まれるようになりましたが、この科にはながいこと標準和名が与えられてきませんでした。

そしてこの度、『日本の深海魚図鑑』において、ようやく科の標準和名が提唱されました。それがオオメハタ科です。なお、従来のホタルジャコ科Acropomatidaeの中には現在はアカムツとホタルジャコ属のみが含められています。

日本に生息するオオメハタの2属を紹介

オオメハタ科はオオメハタ属(7種)、バケムツ属(8種)、1種のみのヘミルチャヌス属(Hemilutjanus)の3属、計16種からなり、日本にはオオメハタ属の4種とバケムツ属の1種、合計5種のみが知られています。

ここでは日本産の2属の魚についてご紹介します。

オオメハタ属 Malakichthys

オオメハタ属のワキヤハタ。高知県(撮影:椎名まさと)/cite>

オオメハタ属は日本からはオオメハタ、ワキヤハタ、ナガオオメハタ、ヒゲオオメハタの4種が知られています。

オオメハタは千葉県~九州南岸までの太平洋岸、沖縄舟状海盆に見られる普通種で、中深層釣りのゲストとしてお馴染みの種です。ワキヤハタもほぼ同じ海域で見られるほか、山口県以南の日本海岸でも見られます。

体がやや細長いナガオオメハタは相模湾以南の太平洋岸、沖縄舟状海盆に見られます。

ナガオオメハタによく似た見た目で2001年に新種記載されたヒゲオオメハタは駿河湾(タイプ産地)~土佐湾の太平洋岸に見られますが、筆者は長崎産の個体も見たことがあります。

ワキヤハタの下顎先端にある棘(黒い矢印)(撮影:椎名まさと)

その大きな特徴は下顎先端に1対の小さな棘があることです(ヒゲオオメハタでは複数ある)。わかりにくい時は上図の矢印のあるあたりを触るとわかりやすいと思います。

臀鰭棘数(臀びれにある先端がとがった部分)は3棘で、ワキヤハタのように基底(ひれの前の付け根から後ろの付け根までの長さ)が長いものと、オオメハタのような基底が短いものがいます。全長25センチメートルほどと、決して大きい魚ではないのですが、沖合底曳網漁業においてはよく網に入り、食用とされる美味な魚です。

バケムツ属 Verilus

バケムツ(撮影:椎名まさと

日本産のオオメハタ科のもうひとつの属であるバケムツ属の魚は日本からはバケムツのみの1属1種が知られています。主に伊豆諸島近海、琉球列島や東シナ海などの深海で釣りや延縄などで漁獲されます。

バケムツ属は従来Neoscombropsという属学名が使われていましたが、現在はVerilusという属学名になっています。オオメハタ属はインド~太平洋海域のみに見られ、大西洋にはいませんが、このバケムツ属は大西洋産の種を含みます。

バケムツの下顎(撮影:椎名まさと)

バケムツの下顎はその先端が黒っぽくなっていますが、オオメハタ属のような小さな棘は見られません。下顎には特徴的な鱗列が見られます。

バケムツの口腔内(撮影:椎名まさと)

バケムツの上顎には恐ろしげな牙が見られ、下顎には小さいですが、鋭い歯が並んでいます。

オオメハタ属もバケムツ属も肉食性の魚で、深場にすむ小魚や小動物を食しているとされています。また口腔内は真っ黒になっています。

見た目はムツ科のムツやクロムツによく似ていますが、ムツやクロムツはムツ属に含まれる別科の魚です。ひれの軟条(やわらかい筋)を数えてみると、バケムツは第2背鰭の軟条数が10軟条ですが、ムツやクロムツは12~13(ムツは12~14)であるのも特徴です。

また臀鰭棘条は3棘でありムツと同数ではありますが、臀鰭軟条数はバケムツは普通7軟条なのに対しムツやクロムツでは11~13軟条と多いことにより見分けられます。

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椎名まさと

魚類の採集も飼育も食することも大好きな30代。関東地方に居住していますが過去様々な場所に居住。特に好きな魚はウツボ科、カエルウオ族、ハゼ科、スズメダイ科、テンジクダイ科、ナマズ類。研究テーマは魚類耳石と底曳網漁業。

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