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魚と一緒に引っ越しする際のポイント5点 <アクアリストの引っ越し>について考えてみる

春といえば、新生活がはじまる季節でもありますが、そのために「引越し」をする人も多いと思います。

魚などの水生生物を飼育されている人は引越しの際、水生生物を新居につれていくことができるかどうか、悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

何度か引越しを経験している筆者の経験をもとに、水生生物を連れての引越しはどうするのがいいか、考えてみました。

ペットの引っ越しは断られることが多い

家財道具や水槽などの飼育用品は引越し業者が運んでくれるのですが、一般的な引越し業者ではペットの引越しは断られることが多いです。理由は、ペットが死亡するなどしても責任がとれないからです。

近年ではペット専門の輸送業者などもおりますが、引越しできる範囲が狭かったり、輸送できる種類に制限があったりします。

また、サービスを行う業者が少なく、ひとつのサービスに人が集中し混雑することもあるため、ご自身で運搬するのがベターといえるかもしれません。

水槽引越しのポイント

引越しをするときのいくつかのポイントについて、あらかじめ触れておきましょう。

(1)あらかじめ水槽を立ち上げておく

二つの家で水槽を同時にまわす(撮影:椎名まさと)

新居と現在の住まいがそれほど遠くない場合におすすめの方法です。水槽をもう1セット購入し、新しい家で立ち上げてから水生生物を入れるというやり方です。

魚を安全に引っ越すための最善策ともいえますが、実際には資金にも時間にも余裕がある方しかこの方法をとることはできないかもしれません。この方法については後述します。

(2)引越しには自家用車は必須

水生生物の運搬には自家用車が必須といえましょう。逆に自家用車さえあれば、ほとんど、どこでもいけるというメリットがあります。

「車がない!」という人は、レンタカーのほか、近年はカーシェアという選択肢もあります。

しかし、水生生物をはじめとする「水もの」を運搬するということは、水漏れや転覆などのリスクもありますので、水漏れ対策は確実に行いましょう。

レンタカーでの引越しには比較的大きなバンタイプの車両が使われることが多いのですが、このタイプの車両は、いつも運転している車両と運転の感覚が異なることもあるので、事故を起こしたり、車を傷つけることがないように注意が必要です。

(3)観賞魚店を頼る

親身になってくれる観賞魚店がいると安心(撮影:椎名まさと)

親身になってくれる観賞魚店がいれば、飼育している魚をいったん預かってもらって、その後宅配便で発送する、なんていうことも可能かもしれません。

ただし、引越し先と居住地があまりにも離れていると、運送会社の都合上、魚を送ってもらうことができなくなるおそれがあります。

たとえば関東から北海道や、九州・沖縄地方および離島などであれば、輸送には主に航空便が使用されます。航空便は扱いが難しく、特に晩秋から、引越しシーズンである春には魚を送ることができない、なんてこともあります。

これは温度管理が難しく、とくに近年は航空貨物でのカイロの取り扱いが難しくなったことが原因です。

(4)移動に弱い生物は慎重に

水生生物の中には、輸送に弱いものがいます。

たとえばサンゴなどは輸送どころか、移動に弱いものが多く、水槽内で飼育しているサンゴを頻繁に動かすというのは、サンゴにダメージを与える行為であり、それによって弱ってしまうサンゴもいます。

ハナサンゴの仲間やハナガササンゴの仲間などは飼育が難しいとされることが多いですが、移動に弱いのも関係しているように思います。そんなサンゴを新居に安全に運ぶには、工夫が必要になります。

バケツにほかのサンゴと一緒に入れて運搬すると、運搬中にころころところがってしまいやすく、サンゴにダメージがあるだけでなく、ほかのサンゴと接触し、そのサンゴもダメージを受ける場合があります。

面倒でもひとつひとつ、ビニール袋の中に入れて梱包したほうがよいでしょう。

フラグサンゴを安全に運ぶには?(撮影:椎名まさと)

最近流行のフラグサンゴ(断片化したサンゴで、プラグと呼ばれる小さな土台に接着させることが多い)の場合は、小さなやわらかい容器に穴を開けて、その穴にプラグの凸になっている部分を刺しておくとよいでしょう。

器に穴を開ける手間はかかってしまいますが、その分、多少転がったりしても安全に運ぶことができます。

ミドリイシのは運搬中にどうしても折れてしまうことがあり注意したい(撮影:椎名まさと)

サンゴの中でも飼育が飼育しにくいことで有名なミドリイシの中でも枝ぶりがとくに細いもの(俗に「深場のミドリイシ」と呼ばれるものに多い)やトゲサンゴ、トゲミドリイシなどは、極めて折れやすいサンゴです。

このことから、どうしても運搬中に折れてしまうことがある、と考えておかなければなりません。

サンゴやライブロックの隙間に潜むハゼを潰さないように注意(撮影:椎名まさと)

また、サンゴやライブロックの隙間などにハゼ科の魚やイソギンポ科の魚、モンガラカワハギの仲間の幼魚、フサカサゴ科のダンゴオコゼなどの魚が入っている可能性があります。これらの魚とサンゴは必ず別に運ぶようにしましょう。そうでないと、魚がサンゴの下敷きになるなどしてつぶれてしまうおそれもあります。

淡水魚では流木の隙間などに潜む習性がある、ドラス科やロリカリア科などのナマズの仲間なども注意が必要です。

そのような習性をもつナマズの仲間は混泳水槽では目立ちにくい存在ではありますが、その存在を忘れないようにしましょう。

また水草も植え替えに弱い種があったりするので注意が必要です。観賞魚店の方や、質問できるサイトで相談してみましょう。

(5)魚もごちゃまぜにするのはやめたほうがいい

ハコフグは皮膚から毒を出す!(撮影:椎名まさと)

サンゴや水草だけでなく、魚もそのままごちゃまぜに運搬するのはやめたほうがよいでしょう。

とくにフグの仲間やヌノサラシの仲間などは、普段混泳時は何ともなくても、運搬中に驚くなどして、皮膚からパフトキシンやグラミスチンなどの毒を出すことがあります。

そうなるとほかの魚が死んでしまうおそれがあります。

さらにそれだけでなく、毒を出した本人(本魚?)であるハコフグやヌノサラシなどもその毒で死亡してしまうおそれがあるのです。

甲殻類はトラブルメーカーになりやすい(撮影:椎名まさと)

このほか、エビやカニなどの甲殻類などもトラブルメーカーとなりやすく、移動中のバケツにほかの魚と一緒にいれていると、ほかの魚や甲殻類と接触したことで弱ってしまった魚を捕食してしまうこともあります。

面倒でも、1尾ずつ別のバケツに入れたり、ビニール袋に入れてパッキングして運ぶことをおすすめします。

エビなどを運搬するときは、エビが捕まるようなスポンジなどを袋のなかに入れておくと、生存率があがります。

ナマコ類は「サポニン」という毒を放出するおそれも(撮影:椎名まさと)

棘皮動物のナマコやヒトデといった生物もほかの生物と一緒に運搬するのはやめたほうがよいでしょう。

これらの生物は体の中に「サポニン」という毒を含んでおり、とくにナマコ類は体がちぎれたり、何らかの原因で弱ったりすると毒がばらまかれてしまい、魚には致命的になるからです。

(6)水槽器具の電源周波数(ヘルツ)をチェック

日本国内では一般に家電製品はコンセントから電気を取ることで動作しますが、その電源周波数については地域によって差があり、引越し先では従来の家庭製品が使えないということがあります。

日本において周波数は50ヘルツ地区と、60ヘルツ地区があります。基本的には東日本で50ヘルツ、西日本では60ヘルツとされています。しかし一部の県では県の東西において周波数が異なる場合があります。

長野県と新潟県、そして静岡県がその例外に当てはまります。これらの県への引越しをお考えでしたら、あらかじめ引越し先の地域の電源周波数を調べておくことが重要です。

一般的な家電製品ではヘルツフリーのものが現在は多いのですが、アクアリウム用品についてはヘルツフリーでないものがあります。

たとえば水中用ACポンプや、照明についてもヘルツフリーでないものがあり、注意が必要です。

水中用ACポンプ。写真の個体は50ヘルツ地区でしか使えない(提供:椎名まさと)

ただし近年は照明に関しては、蛍光灯・メタルハライドランプからLEDへの置き換えが進む過程でほとんどがヘルツフリーとなっております。

筆者は50ヘルツ地域の関東圏内において、中古の安価な外掛けろ過槽を購入使用していましたが、異音や突発的な故障に悩まされることが多くありました。その理由はポンプが60ヘルツ用であったことにあったのです。

このようなトラブルを防ぐためにも、その地区の電源周波数に適合した製品を使用することが大事です。

生き物をすべて移動させられないとき

引き取って来たイトヒキテンジクダイ(撮影:椎名まさと)

残念ながら、引越しをきっかけに「水槽を減らす」とか、「水槽を一時畳む」という決断をされた方もいると思われます。

その際に魚などの生き物についてどうすればいいか、考えてみましょう。

友人・知人に引き取ってもらう

一番ベストなパターンであるといえます。

筆者も「引越しのため飼育できなくなった」というTwitter(現「X」)のフォロワーの方からイトヒキテンジクダイ、カクレクマノミ、マガキガイをひきとったことがありました。

その際はフォロワーの方の自宅より宅配便で送っていただきました。

引き取ってもらう際には直接の受け渡し、宅配便使用共に、原則、金銭の受け渡しはなしにしたほうがトラブルを避けるという意味ではよいかもしれません。

また、宅配便を利用する場合は水漏れトラブルをふせぐためにも梱包(パッキング)はできるだけ自分で行わず、アクアリウムショップにお願いするようにしたほうがよいでしょう。

観賞魚店に引き取ってもらう

基本的には観賞魚店に引き取ってもらうのがベストです。観賞魚店や生体問屋では魚の引き取りをしてくれるところもあります。

これについては「観賞魚引き取りシステム」などのサイトも参照してください。ただし特定外来生物などについては引き取りシステムを使えないなどの問題があります。

魚の放流は絶対だめ

引っ越しにあたり、魚を放流するのは絶対にやめましょう

感染症を広めるおそれもありますし、従来そこに生息していない魚が在来魚を食べてしまうこともあります。

また、同じ種類の魚が生息している場所への放流も、遺伝的かく乱が起こってしまう可能性があります。本来そこにいない魚と在来の魚で交配が進むことで、すむ地域や環境ごとに独自に進化している遺伝子を壊してしまいます。

引越しをする際には、魚を逃がさず安全に運搬できる方法をきちんと考えましょう。また引越しの可能性があり、対応が難しい場合は飼育を始めないこともひとつの選択肢として考えておきましょう。

(サカナトライター:椎名まさと)

参考文献

Ateam inc.-「引越し侍」

日本観賞魚振興事業共同組合

  • この記事の執筆者
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椎名まさと

魚類の採集も飼育も食することも大好きな30代。関東地方に居住していますが過去様々な場所に居住。特に好きな魚はウツボ科、カエルウオ族、ハゼ科、スズメダイ科、テンジクダイ科、ナマズ類。研究テーマは魚類耳石と底曳網漁業。

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