北海道むかわ町といえばシシャモが有名ですが、実は化石も有名です。
古代の地層が分布するむかわ町穂別地区は“恐竜ワールド”とも呼ばれており、アンモナイトや海生爬虫類の化石などが産出することが知られています。
2014年4月、穂別博物館にギンザメの歯の化石として寄贈された標本が、太田晶氏、北海道大学総合博物館・むかわ町穂別博物館、森木和則氏の研究チームにより、ギンザメ目ゾウギンザメ科のこれまで知られていない種であることが明らかになりました。
この研究結果は学術雑誌『Paleontological Research』から出版されています(論文タイトル:Callorhinchus orientalis sp. nov., a new callorhinchid from the Upper Cretaceous Hakobuchi Formation, Yezo Group, Hokkaido, Japan)。
現生するギンザメ目は僅か
現在、軟骨魚類と呼ばれる魚たちには、サメやエイを含む板鰓亜網とギンザメの仲間を含む全頭亜網の2つのグループがあります。
ギンザメの仲間は主に深海に生息しており、底曳網や深場を狙った釣りにより漁獲。ギンザメは一部の地域で食用にもなっています。

現生するギンザメの仲間を含むギンザメ木魚類は板状の歯を上顎に2対、下顎に1対の合計6つの歯を持ちます。そして、サメやエイの歯と異なり、ギンザメの歯は生え変わることなく、生涯成長し続けることが特徴です。
また、現生するギンザメの仲間はサメやエイと比較すると少なく、板鰓亜網で1000種ほどが知られているのに対し、全頭亜網は50種ほどしか知られていません。
むかわ町は化石でも有名
北海道むかわ町穂別地区には、白亜紀末期マーストリヒチアン期最前期(約7200万年前)の地層が分布しており、二枚貝の化石などが産出しています。

今回、新種記載された化石はホロタイプの採集者で、論文の著者でもある太田晶氏によって採集されたものであり、2014年4月にギンザメの歯板の化石として穂別博物館に寄贈。共産する二枚貝の化石の種類から白亜紀末期マーストリヒチアン期最前期のものと推定されたのです。
新種の特徴と名前の由来
この標本は引き伸ばした台形状の形に加え、肉球状のふくらみが1つだけあることから、現生のゾウギンザメを含むゾウギンザメ属(Callorhinchus)の口蓋骨歯板に特有の特徴を示していました
さらに、標本にみられるふくらみは後方部分が舌唇側へと伸長しており、これは現生種と化石種を含む既知のゾウギンザメ属では見られない形質であることが判明。このことから、この標本を新種のゾウギンザメ属であるとしCallorhinchus orientalisと命名されました。
種小名である“orientalis”は「東の」を意味する単語であり、本種が北西太平洋域=極東地域で初めて報告されたゾウギンザメ属であることに由来しています。
大量絶滅を生き延びた要因
現生するゾウギンザメ属3種の分布はいずれも南半球に限られていますが、化石種は両半球から知られており、白亜紀前期~後期の地層において、ロシア、ニュージーランド、古第三期の地層ではアメリカ、イギリスなどから化石が発見されています。

白亜紀末期のゾウギンザメ属の化石記録においては、これまで南半球のみから報告されていました。
しかし今回、Callorhinchus orientalisが発見されたことにより、ゾウギンザメ属が白亜紀末期においても北半球で生存していたことが明らかになったのです。
現生する軟骨魚類において、分布が広いほど絶滅のリスクが低いと考えられており、ゾウギンザメ属が中生代白亜紀末の大量絶滅イベントを生き延びた要因の一つと考えられています。
今後も新たな化石に期待
今回、むかわ町穂別地区から発見されたゾウギンザメ属の化石が既知の種とは異なる特徴を持つことが示され、新種記載されました。
実は、むかわ町穂別地区ではこれまでに貴重な化石が数多く産出しており、種小名が穂別地区に因んだモササウルス・ホベツエンシス、穂別博物館建設のきっかけとなったホベツアラリュウ(愛称)などが知られています。
今後もむかわ町穂別地区からどのような化石が産出するのか、ますます楽しみですね。
(サカナト編集部)