有害プランクトンによる赤潮は、時に魚介類の大量死を引き起こし、莫大な経済損失を発生させます。
「カレニア・ミキモトイ」と呼ばれる渦鞭毛藻の1種は、西日本における赤潮の原因となる主要な有害プランクトンです。近年、本種の赤潮は発生海域が拡大しつつあり、発生等の傾向がどのように変化しているのか注目されています。
そんな中、水産研究・教育機構の三宅陽一研究推進コーディネーターと鬼塚剛グループ長は、水産庁が刊行している赤潮の年報から30年間の本種のデータを抽出・整理・データ解析することで、赤潮の長期的かつ広域的な傾向を明らかにしました。
この研究結果は『Fisheries Science』にオンライン掲載されています(論文タイトル:Long-term statistics of the Karenia mikimotoi blooms in western Japan imply multidecadal intensification and phenological changes on the semi- national, regional, and local scales.)。
海が赤色に見える現象<赤潮>
赤潮は有害プランクトンの異常発生により海が赤色に見える現象で、時に海洋生物の大量死を引き起こします。
西日本における赤潮の主要有害プランクトンは、カレニア・ミキモトイ(学名 Karenia mikimotoi)と呼ばれる大きさ数十ミクロンの渦鞭毛藻の1種。本種によって引き起こされる赤潮(カレニア赤潮)は近年、西日本以外でも見られ、その発生海域が拡大しつつあるといいます。

カレニア赤潮の発生等の傾向・変化が注目されていることに加え、日本の赤潮研究は長い歴史を持つ一方、科学的な手法に基づき、有害赤潮の傾向を長期的かつ広域的に把握することができていませんでした。
カレニア赤潮の発生等の傾向がどのように変化するのかは、今後の養殖による食糧生産だけではなく、沿岸生態系の健全性を考える上で非常に重要とされています。
赤潮年報データの解析
日本では、西日本の沿岸海域における有害赤潮を監視するためのモニタリングが府県の水産試験研究機関等で実施されています。
これらのデータは1970年代から水産庁が刊行する年報としてまとめられ、その貴重なデータが長年蓄積されてきました。この長期的かつ広域的なデータをまとめてデータ解析できれば、従来見過ごされてきた赤潮の長期変化や海域にによる違いが浮き彫りにことが期待されてます。
今回、水産研究・教育機構の三宅陽一研究推進コーディネーターと鬼塚剛グループ長は、一定基準を持つデータセットを作りだし、元のデータの両方を用いてカレニア赤潮の動向を多角的に検討。過去30年間(1991~2020年)の赤潮年報のデータを整理して解析を行いました。
カレニア赤潮の長期的傾向とは
研究では、カレニア赤潮に関する長期データを年報から抽出し、異なる3つの空間スケール(1:西日本、2:瀬戸内海、九州海域、3:豊後水道や八代海などの限られた海域)で整理。
その結果、過去30年間の赤潮による被害総額は約90億円であること、瀬戸内海では九州海域の2倍カレニア・ミキモトイによる赤潮が発生していること、最も遅い赤潮は11月に発生開始していたことなどが明らかになったのです。

また、過去30年間において、西日本より細かい範囲を対象とした解析から、カレニア・ミキモトイによる赤潮の細胞密度増加及び長期化による悪化・早期化の傾向が認められたほか、九州海域を対象とした解析では赤潮発生海域の拡大傾向が認められる結果となりました。
赤潮対策の基盤として重要
この研究では、長年蓄積されてきた貴重なデータの有効利用が実現しました。
このような研究は赤潮対策の検討のための基本情報として、水産業だけではなく学術界にも大きく貢献することが期待されています。
(サカナト編集部)