宮崎県の日南市が誇るかつお一本釣り漁。2023年には、この漁業を中心とした営みが評価され日本農業遺産に認定されました。この記事では、一本釣り漁業の特徴や、日南市のかつお一本釣り漁業が盛んな理由を紹介します。
かつお一本釣り漁とは
カツオを釣り竿一本で次々と釣りあげていく漁がかつお一本釣り漁業です。巻網より効率が悪いように思えるこの漁法ですが、なぜ一本釣り漁をするのでしょうか。
カツオはマグロと同じく泳がなければ息ができない魚なので、巻網などで大量のカツオを獲ると網の中で激しく暴れます。カツオ同士が激しくぶつかり合い、身焼け(漁獲前の体温上昇により魚の身が白く変色する現象)を起こしてしまったり、身が柔らかくなったりして品質が落ちてしまいます。一本釣りなら、魚の品質を落とすことなく綺麗に釣り上げることができるのです。
また、この漁法の特徴に、決まった種類の魚を狙って釣るので他の魚種の混獲がないこと、放置漁具が発生しないこと、乱獲になりにくいことが挙げられます。このことから、海洋環境にやさしい、持続可能な漁法としても注目されています。
カツオ一本釣り漁が盛んな場所は、この記事で取り上げている宮崎県日南市に加え、高知県中土佐町、鹿児島県鹿児島市、静岡県御前崎市などが挙げられます。
日南市かつお一本釣りはなにがすごいの?
カツオ漁は沿岸、近海、遠洋と3つに分類されます。
宮崎県日南市のカツオ漁は近海カツオの一本釣りが主流。カツオの漁獲量は宮崎県は2021年の統計で第5位(魚種別漁獲量・かつお類 (2021年)-農林水産省)ですが、近海かつお一本釣り漁業においての漁獲量は、平成6(1994)年以降、連続で日本一を記録しています(カツオと、夢-カツオと、)。
日南に伝わるかつお一本釣り漁業の歴史は古く、なんと江戸中期から後期にかけて、漁法が紀州藩(現在の和歌山県和歌山市)から飫肥藩(現在の日南市)に伝わったのが始まりとされています。
また、平安時代中期に編纂された法典「延喜式」では、堅男(カツオ)の貢納地として「日向」(現在の宮崎県)の記載があり、少なくとも1100年以上前からカツオを獲っていた(カツオと、山海-カツオと、)と言われています。
日本農業遺産にも認定された
日南市かつお一本釣り漁業は2023年2月、農林水産省によって日本農業遺産に認定されました。
日南市は黒潮が流れる海に面しており、市域のおよそ8割が森林。飫肥(おび)林業も盛んで、森林のうち7割が人口の飫肥杉です。およそ300年前に受け継がれたかつお一本釣り漁業のために、幕政末期から昭和初期ごろまで、造船材に特化した飫肥杉の人工造林に取り組んだと言います。
また、飫肥森林から流れ出た栄養塩は豊かな漁場を育んでいます。かつお一本釣り漁業を核とした自然や生活の循環は後世に伝えるべき美しいものと言えるでしょう。
同地域ではこの文化を継承していくため、漁港や飫肥林の保全・管理や漁業の担い手不足の解消、一本釣りで獲れたカツオを使用したフェアや一本釣り体験など、さまざまな課題に取り組んでいます(宮崎県日南市-農林水産省)。
また、日南市のカツオは宮崎県のプライドフィッシュにも選ばれています(日南のカツオープライドフィッシュ)。現地で食べる新鮮なカツオはご当地グルメとして観光客にも人気を誇ります。
カツオは足が速いことで有名な魚。日南かつお一本釣り漁業で獲れた美味しいカツオは、遠くにいては食べることができません。現地の自然に育まれたカツオを食べに日南へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
(サカナト編集部)