釣り人にとっては「ただのエサ」、水産業では「魚や家畜の飼料」、そして一般の人には「なんだか小さなエビみたいなもの?」と軽く見られがちなのが、オキアミという生き物。
しかし、このオキアミは、実は地球の海洋生態系を根底から支える“縁の下の力持ち”なのです。
体長はわずか数センチ。けれど、この存在なくしてクジラも魚も海鳥も生きていけない──。それがオキアミです。
特に南極海におけるナンキョクオキアミは莫大な量が生息し、プランクトンを食べ、そして自らが多くの捕食者に食べられることで、海の食物連鎖をつなぐ「キーストーン種(要石)」と言われています。
そんなオキアミの知られざる生態と、海の中で果たしている驚きの役割について、見ていきましょう。
オキアミは動物プランクトンの王者 その正体とは?
オキアミは、節足動物門・甲殻綱に属する動物プランクトンの一種。世界にはおよそ85種類ものオキアミが確認されており、そのうち日本近海でよく知られているのが「ナンキョクオキアミ」や「ツノナシオキアミ」などです。
体長は種類にもよりますが、だいたい1~6センチほどと非常に小さな形をしています。

この小さな体のどこにそんなパワーがあるのか?と不思議ですが、オキアミの最大の特徴は個体の形ではなく「数」にあります。彼らは何兆という単位で集団をつくり、ひとつの群れだけでも数百平方キロに及ぶことがあるのです。
さらに、その総重量は人類全体の体重を上回るとも推定されており、海の生物資源としても、地球規模で重要な存在なのです。
オキアミは<さみしがり屋>?

オキアミは実は、とても“さみしがり屋”な生き物です。孤独を嫌い、群れから離れるとそのストレスによって心拍数が上昇するといわれています。
その心拍数の上がり方は、なんと天敵であるクジラを察知したときと同じくらいなのだといいます。
さらに、オキアミは物理的にも集団でいることに大きなメリットがあるのです。1匹では海中に沈んでしまいますが、群れで一斉に泳ぐ「肢かき運動」をすることで上昇流が生まれ、それによって水中での浮遊がしやすくなります。
海洋生態系の環と炭素の運び屋
オキアミは、海の中で非常に多くの生き物たちに食べられる存在です。
クジラやアザラシなどさまざまな海洋生物の重要な餌となっており、食物連鎖の中核を担っています。しかし、オキアミの役割はそれだけにとどまりません。

たとえば、クジラがオキアミを食べて排泄し、その糞が植物プランクトンの栄養源となる。そしてその植物プランクトンを、またオキアミが食べる。こうして「オキアミ→クジラ→糞→植物プランクトン→オキアミ」という「環(わ)」が海の中でつながっているのです。
さらに重要なのは、オキアミが植物プランクトンから間接的に取り込んだ二酸化炭素を、糞のかたちにして深海へ運ぶという働きです。このプロセスにより、炭素は大気に戻ることなく深海に長期間とどまり、地球の炭素循環の調整に貢献しています。
オキアミの利用価値
オキアミは、たんぱく質と脂質を豊富に含んでおり、人間の食料や養殖業における飼料としても高い注目を集めています。

しかし、オキアミの生息域は主に南極海など、地球上でも特に厳しく危険な環境です。
体も非常に小さく、衝撃に弱いため、効率よく大量に漁獲することは技術的にも難しく、過剰な採取によって生態系全体に影響を与えてしまう可能性も否定できません。
一方で、オキアミに含まれる酵素には医療分野での活用が進んでおり、血栓の予防・治療などに役立つことが明らかになっています。
医薬品としての研究も急速に進展しており、今後ますます多様な分野での応用に期待大。小さな海の生き物が、人間社会にも大きな恩恵を与えようとしているのです。
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