サンゴ礁が育む豊かな生物多様性。この「サンゴ礁生態系」は褐虫藻と動物の共生で支えられています。
しかし、近年の温暖化でその共生関係の崩壊することによりサンゴの白化現象が頻発。対策として研究が進められている中、サンゴの体内に生息する細菌が重要な役割を担っている可能性が指摘されています。
シャコはサンゴと同様に褐虫藻を共生させており、褐虫藻の喪失により外套膜の色彩が変化することが知られているものの、シャコガイにおける細菌叢(さいきんそう=多種多様な細菌の集まり)に関する情報はほとんどわかっていませんでした。
こうした中、東京大学の新里宙也准教授を中心とした研究グループは、シャコガイに存在する細菌叢の組成を解明。共生藻がの喪失が細菌叢に与える影響を検証しました。
この研究成果は『Environmental Microbiology』に掲載されています(論文タイトル:Microbiome of the Boring Giant Clam Provides Insights into Holobiont Resilience under Coral Reef Environmental Stress)。
褐虫藻との共生
サンゴ礁は、豊かな生物多様性を育みます。このサンゴ礁にまつわる生態系は、褐虫藻と動物の共生により支えられているのです。
しかし、近年における地球温暖化を起因した海水温上昇や環境ストレスによって、サンゴと褐虫藻の共生関係が崩壊。サンゴの白化現象が頻発しています。

サンゴの白化現象の対策に向け様々な研究が行われる中、研究者たちはサンゴの体内に棲む細菌に注目。これらが、サンゴと褐虫藻の共生関係を維持する上で重要な役割を担っている可能性が指摘されています。
資源量が減少しているシャコガイ
シャコガイ類はサンゴ礁に生息する大型の二枚貝です。シャコガイ類は食用だけではなく観賞用としても利用されており、天然シャコガイの資源量の減少が問題となっています。
また、サンゴと同様に褐虫藻と共生することが知られるシャコガイですが、本種の体内や表面に存在する細菌叢の構成や役割について、ほとんどわかっていませんでした。

そうした中、東京大学の新里宙也准教授と内田大賀大学院生を中心とした研究グループは、ヒメシャコガイ Tridacna crocea の様々な部位から細菌を検出。部位ごとの細菌叢の組成を比較し、褐虫藻の喪失が細菌叢に与える影響を検証しました。
細菌が褐虫藻を強光から保護
ヒメシャコガイにおける細菌叢を解析した結果、主にEndozoicomonas属の細菌で構成されていることが判明しています。この細菌はサンゴにも多く分布する一群です。
一方、外套膜(がいとうまく)ではEndozoicomonas属以外の細菌も多く検出されており、全体で見た細菌叢の多様性が高いことがわかったといいます。
また、外套膜のうち高密度に褐虫藻が共生する外側外套膜では他の部位と比較してRubritalea属やMuricauda属の細菌が多く検出。これらの細菌は、カロテノイドと呼ばれる色素成分を生産することが知られるカロテノイド生産細菌です。
これまでの研究によりカロテノイド生産細菌が褐虫藻を強光ストレスから保護する可能性が示唆されており、ヒメシャコガイの外側外套膜に存在する細菌も同様に褐虫藻を守る可能性が考えられています。
白化したヒメシャコガイの細菌叢
研究では、光を遮断した環境でヒメシャコガイを飼育する実験も行われました。この実験では人工的に褐虫藻を減少させ白化現象を引き起こし、共生関係の崩壊が外側外套膜の細菌叢へ与える影響が調べられています。
検証の結果、褐虫藻の喪失は細菌叢の全体的な多様性に影響がないことが判明したほか、Rubritalea属やMuricauda属の細菌の割合も、白化現象による明瞭な変化は見られていません。
また、カロテノイド生産細菌は褐虫藻の細胞表面にも局在することが先行研究で示されていますが、今回の研究では白化後のシャコガイの外側外套膜からもRubritalea属やMuricauda属の細菌が検出されました。
このことから、これらの細菌は褐虫藻の喪失とともに失われるのではなく、白化後においてもシャコガイの体内に残存すると考えられています。
シャコガイの保全に貢献が期待
今回の研究では褐虫藻が共生する部位において細菌の多様性が高いことが判明し、細菌がシャコガイ-褐虫藻共生の維持に寄与している可能性を示しています。また、褐虫藻を減少させても細菌叢の多様性に大きな影響がなかったことはシャコガイと細菌で安定的な共生関係を築いていることが示唆されました。
これらの研究成果は動物と褐藻の共生を維持する仕組みやシャコガイの保全、サンゴ礁生態系における細菌の役割を解明するために役立つことが期待されています。
(サカナト編集部)