夏といえば川遊び。川で網を片手にガサガサすると捕まえられるのがテナガエビです。
テナガエビは日本各地の河川や水路に広く分布しており、九州以北では通常テナガエビ、ヒラテテナガエビ、ミナミテナガエビの3種が見られます。
テナガエビはスジエビとあわせて「カワエビ」と呼ばれ、都会化が進んだ現在でもスルメをつかった釣りの対象として親しまれている生物です。採集はもちろん、鑑賞しても食べてもおいしい生きものです。
極端に長い前脚は観察が楽しい
テナガエビの最大の特徴は、名前のとおり体の大きさに対して極端に長い前脚です。
特にオス個体は左右非対称の脚を持つこともあり、そのバリエーションの豊かさは観察対象として非常に興味深いものがあります。
餌をつかむ、他の個体を威嚇する、石の隙間に脚を差し入れて索餌する──。
そのひとつひとつの動きに個性があり、長時間眺めていても飽きることはありません。
特に野外では、水底に身を潜めながら長い脚だけを伸ばして獲物を引き寄せる「待ち伏せ型」の行動も確認されており、自然界の中で生き抜く術を垣間見られます。
縄張り意識の強さに注意?
テナガエビ(提供:PhotoAC)テナガエビは見た目こそ控えめですが、じっくり観察していくうちにそれぞれの個体に性格のような違いがあります。大胆に餌を取りに出てくる個体もいれば、警戒心が強くいつまでも物陰に隠れている個体も。
ときに前脚をからませるような動きや、小競り合いのような威嚇行動が多く見られることがあります。
また採取後の飼育ケースがテナガエビの数に対し小さすぎる場合にその縄張り意識から共食いが起こる確率が高まります。せっかく採取した個体が1匹になってしまうこともあるので注意が必要です。
テナガエビの採集方法
網で捕まえられる(提供:PhotoAC)テナガエビの採集シーズンは主に5月から9月です。夜間に岸辺の石の隙間や浅瀬の水草の影などを静かにライトで照らしてみると数多くのテナガエビとアイコンタクトが取れます。
テナガエビの姿が確認できたら、網をゆっくりエビの尻尾側から近づけていきましょう。
エビは危険を察知すると、腹部の筋肉を収縮させ、一気に尾を強く動かして後ろ向きに素早く泳ぎます。これをカーリングジャンプといい、時速30キロものスピードが出ることもあります。この行動を利用し、採取して観察・食材集めに役立ててください。
夜の川辺でライトを片手に歩くフィールドワークは、ただの採集を超えた特別な時間です。水の音に耳を澄ませ、目を凝らし、多種多様な生物と会える。夜だけの行動を観察できるのも、テナガエビ観察の大きな醍醐味の一つです。
テナガエビと環境のつながりを知る
テナガエビはたくさんいる!(提供:PhotoAC)テナガエビを通して見えてくるのは、小さな命の大切さと、自然環境とのつながりです。
一般的な水辺の生物は環境の変化にとても敏感で、少しでも環境が合わないと姿を消してしまうものも多いと言えます。
そんな中、テナガエビは外来種との競合や生息地の減少といった課題にも適応する個体も多く、テナガエビの存在を通して「守るべき自然」について考える機会をくれます。
自然が多いのが良い、悪いと言いたいのではなく、そこに住む人間を含めた生物に興味を持つことでこの世界を少しでも知るきっかけにつながるのです。
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