日本の磯場には、「磯の王様」と呼ばれる魚がいます。
それがイシダイです。
この魚が持つ力強い引きと食味の良さは釣り人にとって憧れの存在であり、ダイバーにとっては岩礁帯で群れ泳ぐ姿や興味津々に近寄ってくる様子が印象的な魚です。
幼魚と成魚で見た目が変わる魚
イシダイ(学名:Oplegnathus fasciatus)は、スズキ目イシダイ科に属する海水魚です。
日本各地の沿岸の岩礁帯に生息し、地域によっては釣りの対象として親しまれています。体長は成魚で50センチ前後、環境の良い地域では80cmを超える個体も確認されており、寿命は20年以上と比較的長寿です。

この魚の特徴は、なんといっても成長による体色の変化。幼魚のころは白と黒の“しま模様”がくっきりと入ることから「シマダイ」と呼ばれることもあります。
一方、成魚になるに伴い、しま模様は不明瞭になり、銀灰色に近い落ち着いた色味に変化。さらに、老成魚のオスは口の周りが黒く染まることから「クログチ」と呼ばれ、メスは「本ワサ」の愛称が有名です。
こうした成長段階による姿の違いも、生き物観察の面白さを感じさせてくれます。
岩礁域の強靭な捕食者
イシダイの特徴は成長に伴って変化する模様だけではありません。石や貝殻をも噛み砕くことができる強靭な歯と顎を持つことも特徴的です。
この歯でサザエやアワビ、カニなどの硬い殻を割り、時には海藻や小魚も食べる雑食性の捕食者。まさに“磯の強者”というにふさわしい生態を備えています。
また、縄張り意識が強く、特定の岩場や沈没物をねぐらにしていることも。ダイバーは、一定の距離を保ちながら生き物を観察しますが、特にイシダイの幼魚は好奇心旺盛で、マスクやフィンに近寄ってくることもあります。
大型の成魚は警戒心が強いものの、人慣れした個体はその美しいメタリックな体色を間近に観察できるため、ダイバーからは人気の的となっているのです。
興味津々に近づいてくる磯の王様
日本海・島根半島でダイビングや素潜り漁を行ってきた筆者。
島根半島で潜っていると、沈没船周りや岩礁域でイシダイによく出会います。小さな群れで泳ぎながらこちらの様子をうかがう姿は、警戒心と好奇心が入り混じった独特の行動です。

幼魚は体にしま模様がはっきり残っていて可愛らしく、大人のイシダイは力強い体つきと銀灰色の輝きがとても魅力的。水中カメラを向けると、逃げずに興味深そうにレンズを覗き込む個体もいて、観察者を楽しませてくれます。
こうした“人間を観察し返すような行動”は魚類の中でも珍しく、イシダイの知性を感じさせます。
釣り人にとって強烈な引きと憧れの対象
イシダイは磯釣りの最高峰と称されるほどの人気魚でもあります。竿を一気に絞り込むほどの強い引きは釣り人を虜にし、経験豊富な釣り師にとっても憧れの対象です。
釣り場によっては大物を狙う専用の仕掛けやエサを用い、長時間粘る根気が必要となるなど、簡単には釣れない魚でもあります。
釣り上げたときの重量感と達成感は格別で、多くの釣り人が「いちどでいいから大物を釣ってみたい」と願うほど。その存在感は、まさに磯の王者の名にふさわしいものです。
食材としても魅力的
イシダイは食用魚としても非常に高い評価を受けています。
クセのない上品な白身は、刺身や寿司、煮付け、塩焼きといった幅広い料理にマッチ。特に、冬場の寒い時期に漁獲される個体は脂がしっかりとのっており、熟成させることで旨味がさらに増します。

ただし、流通量は限られているため、市場で目にする機会は多くありません。
地域によっては高級料亭や地元の漁港でしか味わえないこともあり、食べる機会に恵まれたならぜひ堪能していただきたい魚です。
たくさんの魅力がつまった魚
このようにイシダイは釣り、食、生態、形態など多方面から見ても魅力的な魚です。
日本各地の海に生息しているので、フィールドワークの際に観察してみてはいかがでしょうか。また、食味についてもトップクラスなので見かけた際にはぜひ食べてみてくださいね。
(サカナトライター:ほりぐちよしき)