甲殻類の中には、他の生物の体や巣穴を住処として利用する種やグループも珍しくありません。特にマルハサミヨコエビ属に関しては、多くの種でカイメンやホヤなどと共生することが知られています。
今回、京都大学の花岡朋哉氏らは、三重県鳥羽市にある菅島の海底から世界的にも珍しい二枚貝と共生するマルハサミヨコエビを発見。Leucothoe limidicola と命名しました。
この研究成果は『Zootaxa』に掲載されています(論文タイトル:A new species of the genus Leucothoe Leach, 1814 (Crustacea: Amphipoda: Leucothoidae) associated with a limid bivalve from Sugashima Island, Japan)。
共生する甲殻類
海では様々な生存戦略が繰り広げられおり、それが同時に種やグループを特徴付ける形態や生態となり得ます。
「共生」はユニークな生態であると同時に多くの甲殻類で用いられている戦略で、他の生物の体内・体表、巣穴を利用する生物も珍しくありません。
これは「住み込み共生」と呼ばれ、ナマコ類と共生するナマコマルガザミ、ガンガゼ類と共生するガンガゼカクレエビ、アナジャコの巣穴で暮らすカクレテッポウエビモドキなどが知られています。

これらと同じ甲殻類の一群であるマルハサミヨコエビ属も、他の生物と共生するグループです。
これまで、この属はホヤやカイメンをはじめとした生物、多毛類の巣穴に共生していることがわかっています。
新種&日本初の発見
多くの生物と共生することで知られるマルハサミヨコエビ属ですが、三重県鳥羽市の沖合に位置する菅島(すがしま)で行われた調査ではホヤともカイメンとも共生しない不明種が発見されています。

そのヨコエビ類が共生していたのは、なんと貝類。今回公表された論文の共著者である中島広氏がウスユキミノ Limaria hirasei の触手と外套膜から採集しました。
マルハサミヨコエビ属のヨコエビ類は世界で159種が知られているものの、二枚貝と共生する種は極めて珍しいとされています。
宿主に因んで命名!
その後、不明種の形態調査や遺伝子の解析が行われ Leucothoe akaisen と近い種であることが判明しています。
さらに、詳しい解析を行った結果では不明種が未記載種であることがわかり、ウスユキミノに共生していたことから Leucothoe limidicola(ユキミノノマルハサミヨコエビ)と命名されました。
なお、種小名である「limidicola」はウスユキミノの科名である Limidae とラテン語で「定住する」を意味する -colus を組み合わせたものです。
本種は二枚貝と共生するマルハサミヨコエビ属としては世界で6種目で、日本では初の報告となっています。
身近にいる小さな生物にも注目を
今回発見されたユキミノノマルハサミヨコエビは、二枚貝に共生する世界的に見ても珍しいマルハサミヨコエビ属です。
この発見はヨコエビ類の共生における多様性の解明や宿主から宿主への移行がどのようにして生じるのか、これらの謎を解明する上で重要な知見になるとされています。
また、この成果は身近な海にも新たな発見があると同時、こういった小さな生物の存在が見過ごされている可能性が示されたと言えるでしょう。
(サカナト編集部)