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ポピュラーな魚<ムギツク>の大胆な生存戦略! 天敵の巣に卵を預ける「川の智者」

ムギツクは、体の側面に綺麗な細い黒色帯状の模様をもつ淡水魚です。

本州、九州、四国の一部ではポピュラーな魚で、その美しい姿から観賞用に飼育する愛好家もいます。

そんなムギツクですが、驚くべき生存戦略をとっていることが知られています。

ムギツクとは?

ムギツク(学名:Pungtungia herzi)はコイ目コイ科ムギツク属の魚。本種は10~15センチくらいの大きさで、1本の太くて黒い線とオレンジ色のヒレを持ちます。

また、口は細くとがっており、1対の口ヒゲがあることも特徴です。肉食に偏った雑食性で、水生昆虫や石に付着した藻などを食べます。

捕獲したムギツク(提供:額田善之)

ムギツクは、鴨緑江以南の朝鮮半島のほぼ全域と西日本の限定された地域に自然分布。

国内ではもともと福井県や滋賀県、三重県以西の本州および九州北部、香川県、徳島県の在来種でしたが、近年、国内移入により、東京都、群馬県、千葉県、神奈川県に侵入し、繁殖・定着していることが判明しています。

なお、大阪と香川では絶滅危惧II類に指定され、いくつかの県では準絶滅危惧種に指定されている状況です。

ムギツクの名前の由来

ムギツクは岡山県津山市の呼び名で、漢字では「麦突」と書きます。

トビケラやユスリカの幼虫や藻などをつついて捕食する際に、麦を脱穀する音に似た音を発するので「麦突」という名前がついたそうです。

また、口が細いので「クチボソ」とも呼ばれるほか、アブラメ、イシゴリ、イシツツキ、などの呼び名もあります。

ムギツクは美味しい魚?

岡山県には1級河川が3つあり、ムギツクがたくさん生息するため、地域によっては食用にもされます。

ムギツクの幼魚(提供:額田善之)

淡白な白身で、高梁川水系では焼いたり甘露煮にしたりして食べるなど美味しい魚だといいます。

筆者はまだ食べたことはないので、機会があればぜひ食べてみたいものです。

ムギツクの驚くべき生態<托卵>

ムギツクは一見すると何の変哲もない魚ですが、驚くべき生態を持つことが知られています。

それが「托卵」です。

たまたま捕獲できたムギツクとドンコとオヤニラミ(提供:額田善之)

「托卵」といえば、カッコウという鳥が他の種類の鳥の巣に自分の卵を産みつけて世話をさせる行為を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、魚でも托卵をする種がいるのです。

托卵する相手はなんと天敵

ムギツクは、天敵であるはずのドンコやオヤニラミなどの巣に托卵することが知られています。

その理由は、いたってシンプル。これらの魚はオスが自分の卵を守る性質があるからです。

ムギツクはこれらの魚の産卵場所に集団で侵入し、オスの目が届かないところでこっそり産卵。その後、オヤニラミなどは自分の卵と一緒にムギツクの卵も守るのです。

親が自分の卵を守るイメージ(提供:PhotoAC)

また、ムギツクはギギの巣に托卵することも知られていますが、托卵された巣内のギギ仔魚の胃から孵化前後のムギツクが発見されていることから、ギギがムギツクの卵を餌として利用している可能性が示されています。

ムギツクが生み出した巧みな戦略

ムギツクは托卵を行うことにより、自ら産んだ卵を他の魚に守ってもらうことに成功しました。一方、ギギへ托卵しても卵を食べられてしまうという事実は、生態系の複雑さを物語っています。

天敵の巣に入り産卵するとはすごい勇気ですが、これが進化の過程で生み出したムギツクの繁殖戦略といえるでしょう。

(サカナトライター:額田善之)

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額田善之

額田善之

人生を楽しもう!

愛媛大学理学部生物学科卒の生粋の生き物大好きライターです。特に魚が好きで、子どもと水族館巡りや釣りを楽しんでいます。オートバイで旅をして産地の珍しい魚を食べるのも趣味です。旅行や納豆の記事をよく書きますが、今回から水生生物についても執筆していきますので、よろしくお願いいたします。

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