近年、私たちの健康と生物多様性の繋がりが環境疫学分野で世界的に注目されているといいます。
中でも、「生物多様性仮説(Biodiversity Hypothesis)」と呼ばれる理論が提唱されており、これは生物多様性が豊かな自然環境で生活することが喘息などのアレルギー疾患のリスクを下げる可能性を示すものです。
しかし、これまで生物多様性と小児喘息の因果関係を科学的に検証した研究はほとんどありませんでした。
こうした中、株式会社シンク・ネイチャーは米国Vanderbilt大学疫学部門・城下彰宏医師が主宰する小児喘息研究チームとの共同研究によって、小児喘息の罹患リスクが、生物多様性、特に水辺の自然環境の豊かさで抑止される可能性を定量的に示した論文を発表しました。
調査の結果はアメリカの出版社Wolters Kluwer Healthが運営する学術誌『Environmental Epidemiology』に掲載されています(論文タイトル:Biodiversity and childhood asthma: A nationwide retrospective birth cohort study in Japan)。
自然環境と医療のデータを組み合わせた調査

発表された論文では、日本全国10万組以上の母子を対象に、出生から幼少期にかけて過ごした地域ごとの生物多様性指標と小児喘息の罹患率の関係性を調査。
研究にはJapan Medical Data Center株式会社(JMDC)が有する小児喘息に関する医療データと、シンク・ネイチャー社が有する日本全土の動植物分布・自然環境情報を組み合わせた高解像度データが活用されました。
主な調査項目は、子どもが4~5歳時点で持続する小児喘息を発症したかどうか、そして住んでいた自治体における種の多様性や遺伝的多様性、淡水魚や両生類の存在、田畑・池などの自然環境の豊かさです。

解析の結果、水辺の自然環境や淡水魚・両生類の多様性が高い地域では、子どもが喘息を発症するリスクが2~5%低くなることがわかりました。
従来、都市部の緑地や樹木の多い場所が喘息発症リスクを高める可能性も指摘されてきましたが、今回の研究では特に淡水魚や両生類が生息する水辺の生物多様性が重要だと示されました。
生物多様性の保全・再生が健康に繋がる?

本論文の結果は、小児喘息の罹患率増加を防ぐため、生物多様性、特に水辺の自然環境の豊かさの保全・再生を重視すべきであることを示唆。世界的に進行する生物多様性の減少とともに、こうした地域環境の保全が今後の子どもたちの健康に直結する重要課題だと指摘しています。
今後は、生物多様性ビッグデータやAI技術を活用し、地域の自然資本の価値を見直しや保全に繋げることで、子どもたちの健康を守るための具体的な対策をとることが求められています。
(サカナト編集部)