寒い冬がやってきました。釣り人にとっては、カワハギやコノシロなどが旬を迎える季節がやってきます。
しかし、漁港の岸壁から水にすむ生きものを採集する私たち岩壁採集家にとって、冬はリュウグウノツカイなど珍しい深海魚にも会えるチャンス。水温が下がることで、普段水温が低い深海にすむ生きものたちが表層にもあがってくるのです。
そんな冬ですが、同時に多くの種類のクラゲが現れる季節でもあります。そこで、私が今冬に出会った珍しい種類のクラゲたちを紹介します。
マツノミクラゲ Vogtia serrata(Moser, 1925)
マツノミクラゲはヒドロ虫網クダクラゲ目バテイクラゲ科。ギザギザした泳鐘部と紅色の触手をもつ比較的シンプルな構造をしています。
マツノミクラゲ(撮影:俊甫犬)筆者が採集した個体は4センチほどの大きさでした。
分かっている情報はほとんど無く、かなり希少な種類だと考えております。
バレンクラゲ Physophora hydrostatica(Forsskal, 1775)
バレンクラゲはヒドロ虫網クダクラゲ目バレンクラゲ科。黄色と桃色のグラデーションが美しく、飾りのような感触体という個虫が見た目の上品さをかき立てています。
バレンクラゲ(撮影:俊甫犬)この種類もマツノミクラゲと同じクダクラゲの仲間で、それぞれの役割を持った個虫の集まりです。
あまり見ることが出来ない種類のクラゲですが2月頃に5センチほどのサイズの個体が数回にわたって出現したのには驚きました。
トンボダマクラゲ Tregouboviopusis perradialis (Xu, Huang & Du, 2012)
トンボダマクラゲはヒドロ虫網花クラゲ目ウミエラヒドラ科。見た目の通りガラスの工芸品のトンボ玉に似ていることが名前の由来です。
トンボダマクラゲ(撮影:俊甫犬)中国近海にのみ生息が確認されていた種類ですが、2014年に静岡県の大瀬崎で国内初確認され、2018年には長崎県佐世保市で2例目が発見されました。
もしかしたら筆者が採集した個体は国内3例目になるのでは?と胸が高鳴りました。
キヨヒメクラゲ Kiyohimea aurita(Komai & Tokioka, 1940)
キヨヒメクラゲは無触手網カブトクラゲ目アカダマクラゲ科。クシクラゲの仲間で、栗のような形をしています。
キヨヒメクラゲ(提供:俊甫犬)かなり透明度が高く目視での確認が難しいクラゲで、見つけるのにかなり苦労しましたが、かなり希少なクラゲなので水族館で展示される際は水槽の周りにかなり目立つレイアウトが施されます。
採集した当時はこの個体を活かして水族館に持って行く技術が無かったため、リリースしました。
クラゲ採集でレアなクラゲに出会えるかも!
毒をもつ種も多いことから水族館以外では出会いたくないと思われがちなクラゲですが、漁港で陸上から採集すると安全に観察することができます。
クラゲは網で捕まえると重力で潰れて弱り、あげく死んでしまうことが多いので、ひしゃくなどの水ごとすくえる道具が必要です。バケツにあげると、クラゲをゆっくり観察できますよ。
クラゲは水族館での飼育方法が確立されていない種も多く、観察が難しいクラゲもいます。そんなクラゲたちに出会うことができるのも、この採集方法の特徴です。
これから冬本番。よくよく水面を観察すれば、水族館にもいないような珍しいクラゲに出会えるかも知れません。皆様もぜひ、漁港でクラゲを探してみてはいかがでしょうか。
(サカナトライター:俊甫犬)