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世界初の技術!アニサキスを電気で殺虫? 魚食がより身近になるかもしれない熊本大学の研究とは

アニサキスは魚介類に寄生し、食中毒を起こす寄生虫です。

60℃で1分以上加熱するか、-20℃以下で24時間以上冷凍すれば殺虫できますが、どうしても魚肉の味が落ちてしまいます。

一方、熊本大学などが研究および実用化を進めるアニサキスの殺虫方法が普及していけば、今後より美味しく魚を食べられる日が来るかもしれません。

今後に期待したい、新たな技術に注目してみます。

刺身好きの天敵<アニサキス>

アニサキスとは寄生虫の一種です。

主にサバやアジ、カツオやイカといった魚介類の内臓に寄生しています。

魚の身や内蔵に潜むアニサキス(提供:PhotoAC)

魚の死後、鮮度が落ち始めると内臓から魚の身に移動するため、刺身などを食べた場合に人の体内へ入り、腹痛や嘔吐などの症状を起こすことがあります。

主な殺虫方法は冷凍 ただし鮮度も課題に

60℃で1分以上加熱すればアニサキスを殺虫することができますが、刺身で食べたいときにこの方法は向きません。

加熱せずにアニサキスを殺虫するには、-20度以下で24時間以上冷凍する必要があります。しかし、解凍する際に味が落ちたり、食感の軟化を起こしたりします。

他にも紫外線ライトによってアニサキスを照らし、ピンセットを使い目視で除去する方法もありますが、飲食店で数をさばくには手間が大きいのが現状です。

このため、水産業界では、味を維持したままアニサキス食中毒を防ぐ方法を探すのが長年の課題とされていました。

そして水産業界だけでなく、家庭で魚を扱う人にとっても、アニサキスは常につきまとう不安です。

筆者もよく魚屋やスーパーで鮮魚を購入しますが、スーパーなどでは生食における注意喚起がされているため、注意しながら購入しています。もっと気軽に魚が食べれたらいいのに…と思うこともしばしば。

そう考えていた矢先、熊本大学の興味深い研究を知りました。それが、熊本大学ナノマテリアル研究所と株式会社ジャパン・シーフーズの共同研究によって開発された殺虫方法です。

水産業界の課題を解決するための研究

熊本大学ナノマテリアル研究所とジャパン・シーフーズ社が共同研究するのは、パルスパワー(高電圧大電流)を用いて瞬間的に大量の電気を流し、魚の内部にいるアニサキスを殺虫するというものです。

パルスパワーはリチウムイオン電池のリサイクルや廃水処理など、私たちの身近でも使われている技術。弱い電流を機械に蓄積したのち、瞬間的に放出することで、強力な電流を生み出します。

強い電気を一瞬で魚身に与えるため、温度変化などによる身の劣化を防ぎつつ、電気のショックでアニサキスを殺虫することができます。

解凍した魚のように品質が落ちることなく、チルド品のような鮮度を保てるのが大きなメリットです。

プロトタイプ機が完成、今後に注目

パルスパワーでのアニサキスの殺虫は、世界初の技術として実用化に向けた取り組みが進んでいます。研究所ではすでにプロトタイプ機が完成しているといい、生食用刺身のサンプルなども作られているようです。

安全に刺し身が食べられるようになるかも(提供:PhotoAC)

一方で、現段階ではコスト面などの課題も残っています。

改良を続け商用化されれば、冷凍以外のアニサキス殺虫技術として、水産業界の長年の課題を解決する一助になりそうですね。

普及が望まれる技術

パルスパワーによるアニサキス殺虫が普及すれば、より気軽に魚の生食ができるようになります。

魚屋やスーパーだけでなく、飲食業界や私たちにとっても嬉しいニュースになりそうです。

アニサキス殺虫の技術が進歩することで、より魚食が身近になる未来が楽しみですね。

(サカナトライター:秋津)

参考文献

熊本大学-パルスパワーを用いた新しいアニサキス殺虫方法を開発 ―アニサキス食中毒リスクのない刺身―

厚生労働省-アニサキスによる食中毒を予防しましょう

  • この記事の執筆者
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秋津

幼少期から魚が大好きで、祖母が作ってくれた魚のぬいぐるみと過ごす。大人になってからも水族館や魚グッズを集めてまわる。うつぼが好きすぎて結婚指輪もうつぼにしてもらう。

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