魚をはじめとした海の生き物の採集家は、水族館を眺めるだけでは満たされない、ペットショップで買うのもどこか違う──だから、自分の手で採り、自分の力で育てる。そこにこそ、ロマンを感じるのです。
筆者である私も、定期的に海へと足を運び、魚や海の生き物を採集し、自宅で飼育する趣味を持っています。
私のような採集家が、1年間をどのように考え、過ごしているのかをまとめてみました。
アクアリストの1年間
海水魚を採集し飼育する──というのは、採集とマリンアクアリウム(海水水槽での生きもの飼育)の両方を行う必要があります。
採集と飼育はセット(提供:たつ)採集は魚が活発になる春から秋を中心に行う、いわば季節限定の活動ですが、飼育は1年を通して続けることができます。
この趣味は1年を通してやることが多く、とても奥が深いです。
同じ趣味を持つ人の間でも1年の過ごし方は千差万別ではありますが、採集家である私の1年を例に挙げ、採集家がどんなことを考えて過ごしているのか紹介したいと思います。
4~5月は「準備期間」
まずは年度が切り替わる春先から見ていきます。
この時期はまず、仕事や学校、新生活などに伴い水槽を新調するか否かを考えます。
引越しが終わった頃や新生活に慣れてきたころ、生活が落ち着くとまず、採集家はペットショップなどで水槽や器具を調べてどんな魚を飼おうかと計画を立てます。
どんな魚を飼おうか想像しながら見て水槽を準備(提供:たつ)淡水水槽であれば、水道水のカルキを抜き、水槽をセッティングすれば、とりあえずは立ち上げ完了。
ですが、海水水槽は複雑な海水を人工海水の素、もしくは自然海水を利用し、そこにバクテリアを定着させ……といった調子で多くの準備が必要です。海水水槽の立ち上げは、一般的に3ヶ月以上かかるといわれています。
それを踏まえて、採集シーズンの8月に照準を合わせて、魚を飼育できる環境を春先から準備します。ここでしっかりと下準備をすることにより、スムーズに採集シーズンを迎えることができるのです。
また、空いた時間には新しい採集ポイントを探すためGoogleマップを見たり、ウェブ上で情報収集をします。
余裕があれば、実際に足を運んでみて駐車場や海の状況などを確認できるとベストです。
6~7月は「岸壁採集」と「流れ藻採集」
6〜7月くらいのの時期から、少しずつフィールドに足を運びます。主には「岸壁採集」と「流れ藻採集」が目的です。
南方からやってくる熱帯魚、季節来遊魚(死滅回遊魚ともいう)はまだ少ないですが、この時期の漁港ではソラスズメダイやキヌバリ、カゴカキダイ、ホウボウなどさまざまな種類の幼魚を見ることができます。
採集の対象となるのは、主に夏季にやってくる熱帯魚なので、この時期は魚を採集しても観察だけに留めてリリースすることが多いです。
漁港からの流れ藻採集も行う
この時期の海はまだ少し寒いです。潜ることのできる水温ではあるものの、まだまだ鮮やかな魚は少なく、海の中は落ち着いている印象。なので、海には潜らずに漁港で海の様子を見るのが日常になります。
この時期に台風などで天気が荒れた場合、天気が回復した日には漁港にはちぎれた海藻やゴミが溜まり、流れ藻採集も行えます。
流れ藻採集とは、漁港に流れ着いた流れ藻に住んだり擬態できる魚を網ですくう採集方法。流れ藻採集ではハナオコゼ、カワハギやギンポの仲間などを見ることができます。
流れ藻採集でよく採集できるソウシハギは毒を持つ(提供:たつ)水槽の準備も並行して行う
この時期、水槽の中にはテストフィッシュを泳がせています。
テストフィッシュとは、水槽の環境に問題ないか確認するために、本立ち上げの前に投入する魚のこと。パイロットフィッシュと呼ぶこともあります。
また、水質の確認だけでなく、排せつ物や食べ残しがバクテリアの増殖を助けるメリットもあるのです。
焦らず手を抜かず水槽環境の成熟を待ちます。海に魚が増えてくるとついたくさん採集しがちになりますが、それを抑えて魚を入れすぎないことに注意します。