魚の採集活動を行う筆者は昨年、憧れの魚の一つであるギバチを採集することができました。
2024年12月には、その様子を「今年憧れの魚<ギバチ>を採集できた話 アリアケギバチとの違い&飼育方法とは?」という記事にまとめています。憧れの魚であった<ギバチ>を採集できた話を中心に、飼育方法やアリアケギバチとの違いなどについてまとめた内容です。
一方、記事の中で、2025年は日本産ギギ科ギバチ属のもう一つの種である「ギギ」を採集したいとも書いていた筆者。果たして、今年も憧れの魚は獲れたのでしょうか。
ギギとはどんな魚か
ギギTachysurus nudiceps(Sauvage, 1883) は、ナマズ目・ギギ科・ギバチ属の淡水魚です。
小さいうちは体側には金色の模様がはいりますが、成長すると一様に暗色になり、同じギバチ属のギバチと似たところがあります。顔には8本のひげがあり、大きくくりっとした眼がかわいい魚です。
ギギの成魚(提供:PhotoAC)生息環境は河川の上流から中流・下流域まで広く見られ、移入されたものではありますが、佐賀県筑後川水系ではヒイラギやウロハゼなどが確認されているような場所からも採集されています。
ギバチとの見分け方としては、ギバチでは尾鰭が丸みを帯びているのに対し、ギギの尾鰭は深く切れ込み、二叉するのが特徴です。この特徴さえ覚えておけば見分けることは難しくないと思われます。
ギギの名前の由来
「ギギ」というのは関西地方での呼称らしく、「ギィギィ」という音を出すことから来ているとされます。
これは胸鰭の棘を使って発音するとのことですが、残念ながら筆者はこの音を聞くことはできていません。そして注意しなければならないのはその棘で、ギバチ属の魚はこの胸鰭の棘と背鰭棘に毒があるのです。
ギバチ属の鰭の棘には毒がある(写真はアリアケギバチ)(提供:椎名まさと)筆者は以前同じギバチ属のアリアケギバチに刺されてしまい、その時はしばらくじんじんとした痛みが続いた記憶があります。
採集の際には、うっかりして刺されないよう、素手で触れないで扱ったほうがよいでしょう。
私の憧れの魚・ギギ
私は2005年の初夏に初めてギギ科魚類のアリアケギバチを採集し、2024年には関東の河川でギバチを採集することもできました。そして同様に日本の在来のギギ科魚類であり、かつ合法的に採集することができるもう1種であるギギ。
この魚もいつか採集してみたいという想いが強くありました。私がこれまでギギを採集できていなかった理由は、その分布域にあります。
分布域は滋賀県琵琶湖、関西から山口県までの本州、四国東部、九州東部に及びますが、筆者はこれらの地域ではこれまであまり淡水魚採集に訪れることがなかったために、ギギに出会えていなかったのだと思います。
2024年にはギバチを採集できた。2025年はいよいよギギに挑む(提供:椎名まさと)その中で筆者が注目した地域が岡山県。
岡山県には、東から順に、県内河川で最大の流域面積を誇る「吉井川」、岡山市内や岡山城のそばを流れる「旭川」、そして新見市から倉敷市を流れる「高梁川」の3つの有名な河川があります。
これらの河川はいずれも瀬戸内海に注ぎ、一部の河川には国の天然記念物であるアユモドキを含む様々な魚が生息。日本産淡水魚の愛好家にとっては聖地ともいえる地域のひとつと言えるでしょう。
一方、日本産淡水魚愛好家の聖地のひとつであり、フランス人のソヴァージュにより記載されたギギのタイプ産地でもあるのが琵琶湖です。琵琶湖においてはギギはまれな種で個体数が減少しているとされており、やはりギギを採集するのであれば岡山県が一番と思いました。
筆者は関東から岡山県を経由して瀬戸大橋から四国へわたり磯採集を行うことが多いのですが、不思議なことに岡山県は通過することが多く、なかなか採集する機会はありませんでした。しかし「ギギが獲れるなら」と思い、岡山県にも淡水魚採集に行ってみることにしたのです。
岡山県の河川でギギ探し
「私にとって憧れの魚である、ギギを手中に収めたい……」
そんな願いをかなえてくれたのが、X(旧Twitter)のハンドルネーム「バナンさん」さん。
茨城県つくば市から高速道路で800キロほど走り、岡山市内のコンビニで待ち合わせたのち、彼の車についていき、一路、ギギのすむ河川中流域のポイントへと向かうことになりました。
ついに憧れのギギが!
採集したのは9月の終わりで、空にはやや雲がかかっていたものの、それでも暑く、セミの声も。「バナンさん」さんは水草を掬ったり、砂を網で掬ったりしながら魚を探しており、筆者も早速海パンで川に入り、魚を探すことに。
大きな岩の下に潜んでいる(提供:椎名まさと)採集場所は小さいものは握りこぶし大から、大きいものでは長さ50センチくらいある大小さまざまな石が転がっている場所で、石をひっくり返すと、黒いシルエットが浮かび上がりました。これが筆者とギギとの初めての出会いでした。
その個体は逃げ出してしまったものの、散策を続けてみるとたくさんのギギの姿を見ることができたのでした。そしてそのうち1匹を網ですくうことができました。もちろん、ひっくり返した石は後で元に戻しておくようにしましょう。
憧れのギギ。格好いい(提供:椎名まさと)この場所ではギギのほかにも、イトモロコやムギツク、カワムツ、フナ類、オオシマドジョウなど、いろいろな魚が見られましたが、大きな石の周りではよく見られるはずのヨシノボリの仲間が少ないように思われました。
もしかしたらギギがヨシノボリを食べているのかもしれません。ギギはこのような生物に支えられながら生きているのです。