海洋環境の変化により、南方の生物がこれまでよりも北方の海域に出現することは、珍しくありません。
今年7月、佐島漁港沖でミドリイシ属のサンゴ3群体が地元漁師により採取されました。この記録は、これまでの北限記録を更新するもので、サンゴの拡大を表すものとなっています。
この研究は「Galaxea, Journal of Coral Reef Studies」に掲載されています(論文タイトル:Northernmost Official Record of Acropora cf. solitaryensis and A. aff. divaricata Colonies Landed at Sajima Fishing Port, Yokosuka City, Kanagawa Prefecture)。
関東における南方種の出現
温暖化による海水温上昇などによる環境の変化は、生物の分布にも影響を及ぼします。特に南方種の北限記録は海洋環境の変化を表す現象の1つといえるでしょう。
相模湾(提供:PhotoAC)太平洋に開けた相模湾では近年、南方系の生物が出現しており、魚類ではチャイロマルハタなどの南方種が北上傾向にあるとされています。
そうした中、今年7月24日には神奈川県の佐島漁港で、最大直径35センチのテーブル状ミドリイシ属サンゴが3群体が水揚げされました。
最北限のミドリイシ
立教大学の大久保奈弥教授と宮崎大学の深見裕伸教授の研究グループは、水揚げされたミドリイシ属のサンゴ3群体を形態学的・遺伝学的に同定。1群体をミドリイシと同定し、2群体がエンタクミドリイシと同定されました。
いずれも、日本における北限は太平洋側で千葉県館山市波左間、日本海側で長崎県対馬市とされています。
ミドリイシ属のサンゴ(提供:PhotoAC)そのため、佐島におけるエンタクミドリイシとミドリイシの水揚げは、これらの分布が相模湾を含む関東沿岸に広がっていることを示すものとなりました。
今回の個体は水深3~5メートルから得られており、現地のダイバーによると直径60センチにも達するテーブル状のサンゴも確認されているとのことです。また、これらのサンゴは少なくとも10~30年は相模湾で越冬してきたと推定されています。
指標生物でもあるサンゴ
サンゴは“海洋環境の指標生物”ともいわれています。今回の佐島におけるミドリイシ属サンゴの発見は、温暖化に伴いサンゴの分布が北へ拡大していることを示すものです。
このような海の中の変化は漁業にも影響を及ぶすと考えられています。今後もこのような海洋環境の変化を理解し、適切に対応することが求められています。
(サカナト編集部)