水産物の需要が高まる中、天然資源は減少傾向にある一方で、養殖生産が拡大しています。
日本では陸上養殖が注目されているものの、コストが高く、利益率が低いことが課題です。いかに利益率を高めるかが重要ですが、飼育試験による最適条件の検討にも大きなコストがかかってしまいます。
そうした中で、北海道大学大学院水産科学研究院の研究グループはニジマスの成長をコンピュータ上で再現する養殖シミュレーションを開発。実際の飼育試験データとの比較検証を行いました。
この研究成果は「Scientific Reports」に掲載されています(論文タイトル:An aquaculture simulator for rainbow trout (Oncorhynchus mykiss) based on a fish schooling behavioral model and a dynamic energy budget)。
注目される「陸上養殖」コストが課題
現在、世界的に水産物の需要が増加しています。その反面、天然資源は減少傾向にあり、人工的に魚を育てる養殖生産が拡大しています。
日本における養殖では、これまで海面養殖がほとんどでしたが、日本国内の海面養殖は拡大余地がないと言われており、陸上で養殖をする陸上養殖が注目されています。
海面養殖のイメージ(提供:PhotoAC)一方、陸上養殖では電気代、施設建造費といったコストが莫大で、尚且つ、利益率の低さが課題です。そのため、利益率の高い飼育条件を探ることは非常に重要だといいます。
これに対し、これまでは飼育試験による最適条件の検討がおこなわれてきましたが、これにも時間とコストを要することが新たな課題となっていました。
ニジマスを対象に試験 魚の成長量をシミュレーション
研究ではニジマス Oncorhynchus mykiss を対象にシミュレーション構築と飼育試験がおこなわれました。
シミュレーションモデルは、魚群行動モデルと動的エネルギー収支モデルという2つのモデルを組み合わせることで構築されています。
ニジマス(提供:PhotoAC)魚群行動モデルでは魚の摂餌行動を再現し、餌の摂取量をシミュレーション。動的エネルギー収支モデルでは摂取した餌から吸収されるエネルギー量が計算され、成長に回されるエネルギー量の計算がおこなわれました。
この流れを反復することで、魚の成長量をシミュレーションすることが可能になるといいます。
飼育試験とシミュレーションを比較
また、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター七飯淡水実験所では、実際のニジマスを用いた203日間の飼育試験がおこなわれました。
この際、給餌量や個体数、個体の体重・尾叉長(びさちょう)を計測。この飼育試験と同じになるシミュレーションを実施しすることで、実際の飼育試験と比較し、シミュレーションの精度を確認するというものです。
成長過程を一定の精度で再現
飼育試験とシミュレーションを比較した結果、シミュレーションは魚の摂餌行動と遊泳行動をリアルに再現できることが確認されました。
養殖において重要な指標となるFCR(魚を1キロ成長させるのに必要な餌の量)の再現と実測値の比較でも、初期80日間の試験で1.19、シミュレーションで1.18と、FCRの再現も良好であることが示されています。
また、養殖における大きなコストである給餌量について、給餌量を0.7倍、1.0倍、1.3倍にしたシミュレーションがおこなわれました。その結果、給餌量を増やすと成長速度が増加するものの、FCRは成長段階によって変わり、最適な給餌量も変化することが明らかになっています。
他の魚種への応用も
今回の研究によって、コンピュータ上で養殖試験ができるシミュレーション技術が開発されました。
シミュレーションは実際の飼育試験との比較により、一定の精度で成長過程を再現することが可能となっています。今後は他の魚種への応用や、陸上養殖の効率化へつながることが期待されています。
(サカナト編集部)