誕生してからおよそ400万年ほども経っている琵琶湖。数多くの動植物が生息している古代湖であり、固有の種や亜種も珍しくありません。
稀少な動植物たちは独自の生態系を形成するだけでなく、琵琶湖周辺に住む人々とも密接な関係を築き上げてきました。
この記事では琵琶湖固有の亜種ニゴロブナをご紹介します。
ニゴロブナは琵琶湖固有の亜種
ニゴロブナは琵琶湖にしか生息しない固有の亜種で、コイ科フナ属に含まれます。産卵期は4~6月でヨシ帯に産卵し、産まれた稚魚はヨシ帯で成長。子持ちのメスは非常に高価です。琵琶湖のフナ属は全部で3種で、本種の他にゲンゴロウブナ、ギンブナが生息しています。
ゲンゴロウブナは釣りの対象として有名なヘラブナの原種。現在は日本各地に移植されていますが、本来は琵琶湖・淀川水系の固有種だったと考えられています。また、ニゴロブナの和名の由来はゲンゴロウブナ(源五郎鮒)に似ているから「似五郎鮒」になったという説が有力です。
ギンブナは全国に分布する魚で、滋賀県では別名「ヒワラ」とも。ニゴロブナ同様、琵琶湖で食用になり洗いやフナの子まぶしなどで食べられています。琵琶湖に生息するニゴロブナ、ゲンゴロウブナとは鰓耙(さいは/魚のエラについているトゲ)数が異なることで区別することが可能です。また、ニゴロブナは喉部が角ばる特徴があります。
ニゴロブナはメスが高価 オスの10倍の価格になることも
滋賀県で重宝されるニゴロブナは「琵琶湖八珍」にも選定されています。ニゴロブナはふな寿司の原料として非常に重要な資源で、主に琵琶湖周辺で流通する特産品。ふな寿司は塩漬けしたフナを米に漬け乳酸発酵させた琵琶湖特産の郷土料理で、原料は主に子持ちのニゴロブナが使われます。
ゲンゴロウブナやギンブナでもふな寿司は作れるものの、ニゴロブナで作ったものは骨が柔らかく非常に美味だそう。滋賀県ではふな寿司をハレの日に食べる習慣があり、かつては家庭でも作られていたとか。高級品となった現代でも独特な風味と旨味が人々を魅了し続けています。
琵琶湖では小糸網(刺網)や沖(ちゅう)びき網、もんどり漁、小型定置網で漁獲されます。漁の最盛期はメスが卵を持つ3~4月。メスのニゴロブナは非常に高価で取り引きされ、オスの10倍もの価格になることもあるそうです。
ニゴロブナは減少している
ふな寿司に欠かせないニゴロブナですが近年は減少傾向にあり、また家庭でふな寿司を作る人も減っているといいます。
昭和40年頃のニゴロブナ漁獲量は推定500トン程度あったとされていますが、平成元年には178トン、平成9年には18トンまで減少しています(滋賀県-ニゴロブナ)。また、フナ類全体の漁獲漁も減少しており、1980年代半ばまで500トン以上の漁獲量が維持されていましたが、1994年に95トンまで減少し2012年まで100トン前後を推移しています(琵琶湖におけるニゴロブナ漁獲魚の体長組成,年齢,性比および成熟状態)。
ニゴロブナの減少は産卵場所かつ稚魚の育成場であるヨシ帯の減少、オオクチバスによる食害などが原因と考えられているそうです。これを受け滋賀県ではニゴロブナの資源回復を図り、稚魚の放流や漁獲サイズの制限など様々な対策を行ってきました。漁獲量の前後はあるものの近年、少しずつ回復傾向にあるようです。
淡水域の環境は海よりもはるかに早いスピードで変化していきます。琵琶湖特産のニゴロブナとふな寿司がこれから先も継承されていくことを願うばかりです。
(サカナト編集部)