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小さくて不思議&謎多き水藻のニンジャ甲殻類<ワレカラ>【私の好きなサカナたち】

Web『サカナト』には様々な水生生物好きのライター(執筆者)が所属しています。そんなライターの皆さんが特に好きなサカナ・水生生物について自由闊達に語らう企画「私の好きなサカナたち」。今回はサカナトライターみのりさんによる「私の好きなサカナたち」をお届けします。

「好きな水生生物は何ですか?」と聞かれたら、私はワレカラを挙げます。私はこの生き物に大学の卒業研究で出会い、1年間彼らにだけ向き合い続け、いつの間にか恋をしていました。

皆さんはワレカラをご存知でしょうか?

小さな甲殻類<ワレカラ>ってどんな生き物?

ワレカラは海に生息する甲殻類の仲間で、カマキリのようなナナフシのような、細長く不思議な見た目をした生き物です。大きさは数ミリ~数センチ程度のとても小さな、ハッキリ言ってマイナーな生き物です。彼らは甲殻類ですが、エビやカニとは別グループ(端脚目)の生き物になります。

ワレカラは泳ぎが苦手で、多くの種は海藻や岩などの基質に掴まって生活しています。堤防や磯などでも時々見かけます。それらの基質の上で、波に乗って流れてくる有機物や小動物、プランクトンなどを食べています。頭の上に付いている触角でエサをかき集め、必死にモグモグしている仕草はたまらなくカワイイです。

エサを効率的に集めるためなのか、よく基質の上でヘッドバンキングをしています。ヘヴィメタルのボーカルが長髪を振り回すように触角を振り回し、エサを絡めとって食べるのです。見ていて全く飽きません。

今では認知度ゼロのワレカラですが、実は古今和歌集枕草子という有名な文学作品に登場し「われから食わぬ上人なし」という諺まで存在します。殺生をしない上人(仏教のお偉いさん)であっても、海藻の上に乗ったワレカラは気づかぬうちに食べているという意味で、どんな人であっても完璧など存在しないということです。

このように、ワレカラは古くから日本人にとってなじみのある生き物だったのです。

ワレカラは魚類の餌資源になっている可能性

私はそんなワレカラについて様々な研究を行いましたが、一番びっくりしたのは彼らの総量調査です。私はとあるホタテの海上養殖施設で、彼らの総量がいくつになるのか推定調査を行いました。ある月の養殖施設全体におけるワレカラの総量はなんと270トンにもなりました。

また同じ海域に生息する魚類を調査していた友人が、よく魚の胃からワレカラが出てくると教えてくれました。この調査で、ワレカラはその海域における魚類の餌資源になっている可能性が考えられました。

認知度の低いワレカラも食物連鎖における重要な役割を担っていたのです。どんな生き物にも価値があり、彼らの生態を解明することは非常に重要なのだと学びました。

小さく不思議で、謎多きワレカラたち。そんな彼らのことを少しでも覚えていてもらえたら幸いです。

(サカナトライター・みのり)

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みのり

みのり

センス・オブ・ワンダーを大切に

北里大学海洋生命科学部卒・元水族館飼育員。魚類・クラゲはもちろん、イルカの飼育も担当。非常に多趣味で、生き物観察やフィールドワークはもちろん、映画や読書、ゲームも好き。多趣味ゆえの独自の視点、飼育員視点を交えつつ、水生生物やそれを取り巻く自然環境、文化、水族館の魅力を発信していきます。

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