ソウシハギが持つ毒
ソウシハギは毒をもつことがあります。沖縄では内臓に毒があるといい、肝臓や消化管内容物に水溶性毒を含むことがある、とされています。
その毒の名称はソウシハギの学名より「アルテリン(Aluterin)」と命名されましたが、イワスナギンチャクに由来し、名称もその学名に由来する「パリトキシン(Palytoxin)」と同一、または極めて類似する毒性であることが明らかになり、前者の名称は現在はほとんど使用されていません。
ソウシハギの毒は特に消化管内容物に多く含まれるとされており、強い毒性が認められた個体の消化管内容物はサンゴ片で、それはイワスナギンチャクであったり、あるいはイワスナギンチャクとは別のスナギンチャク類であったりすることが分かっています。
一方筋肉、皮、生殖腺は無毒で、実際にサイパン島の漁業従事者は身(筋肉)は食用としていますが、腸をブタに与えると死亡するという報告があります。この場合、ブタにソウシハギの内臓を餌として与える際に消化管内容物を取り除くとは考えられず、ブタの死亡は魚の内臓の毒によるものよりも消化管内容物の毒によるものと考えられる、とのことです(橋本、1977)。
ソウシハギによる死亡例は日本ではありませんが、同じパリトキシンによる毒としてはアオブダイやウミスズメによる死亡例があり、注意が必要です。
食用魚としてのソウシハギ
近年、テレビや新聞などのマスメディアの報道により「有毒」「猛毒」のイメージが強くなってしまった感のあるソウシハギ。沖縄では「せんするー」「さんすなー」などと呼ばれており、食用になっています。
下瀬(2021)によれば、沖縄では肝臓も食用にするとされますが、具志堅(1972)では「肝臓は毒性をもつ」としており、本種の内臓は食用としないほうが無難でしょう。そして内臓を取った後の身もよく洗ったほうがよいでしょう。
2021年、我が家にソウシハギがやってきました。日本海、または東シナ海で旋網漁業により漁獲されたもので、有名な鮮魚店で3匹購入し、薄造りにして食べました。身は白く透明感もあり美しいものです。
一方味についてはうまみが少ないように感じました。ふつうカワハギ科魚類の刺身であれば、肝臓が文字通り「キモ」になるのですが、その肝臓に毒を有することがあるソウシハギでは肝臓を食べることは避けたいところで、それゆえにうまみが少ないといえそうです。ポン酢がよく合います。
ちなみにソウシハギは血が非常に臭う個体もおり、そのような個体は食しても臭みがあることがあります。筆者も以前高知県産のソウシハギを入手し、食しようとしましたがあまりの臭いに断念したこともあります。
アクアリウムフィッシュとしてのソウシハギ
ソウシハギは水族館でも見られることがありますが、非常に大きく育つため、かなり大型の水槽が必要になります。
ソウシハギといえば長い尾鰭が特徴ですが、そのご自慢の長い尾鰭も、ほかの魚が多い水槽で飼育するとつつかれて短くなってしまいます。また、幼魚の飼育は難しいとされています。
このほか、ごくまれに観賞魚店で販売されることもありますが、家庭の水槽においては長期飼育することは困難で、手を出してはいけません。
近年はサンゴ水槽が人気ですが、本種はサンゴを食べることがありますので、そういう意味でも飼育はおすすめしません。