癖がなく淡白な身が楽しめるフグ料理。特に、フグ刺しやフグ鍋は昔から親しまれてきた料理で、現在も人気を博しています。
一方、フグは猛毒を持つ魚としても有名です。その毒性から、安土桃山時代から明治21年頃までフグを食べることは禁止されていました。しかし、禁止されている間も、「フグの毒に当たると死ぬことがある」と「鉄砲の弾に当たると死ぬ」をかけて「鉄砲」という隠語によって、市民の間でひそかに楽しまれていました。
この記事では、フグの毒の特徴や対処法、フグの養殖について紹介します。
フグ毒の種類は「テトロドトキシン」
フグにはテトロドトキシンという毒があります。主に肝臓・卵巣・皮の毒が強いと言われていますが、毒の強さはフグの種類や部位、漁獲地域によって違います。
テトロドトキシンによる症状 フグ特有の毒ではない?
テトロドトキシンは、発症が早く症状がとても重いことが特徴です。食後20分から3時間程度でしびれや麻痺症状が表れ、ときには呼吸困難で死亡することがあります。最も早い事例では、1時間半で死亡に至ったという報告もあります。300度に加熱しても分解されることがない実験結果があり、加熱調理をしても中毒が起きてしまいます。
フグの毒性は、フグの種類や部位、漁獲地域に大きく左右されます。しかし、同じ条件で獲ったフグでも毒性が違う場合があり、そのメカニズムは解明されていません。
この毒は、フグ科の魚類だけでなく、ヒョウモンダコやヒトデ、スベスベマンジュウガニなどの海洋生物をはじめ、イモリやカエルなどの両生類からも発見されています。
フグ毒の症状が出た場合はすぐに治療を受ける
テトロドトキシンは、確実な治療方法や解毒剤はありません。呼吸困難に陥ってしまうため、人工呼吸器で呼吸を補う対症療法が行われているようです。フグ中毒が疑われる場合は、一刻も早く適切な治療を受ける必要があります。細胞組織の損傷を起こす毒ではなく症状は一時的で、体から毒が抜けたあとには後遺症も残らないとされています。
フグを扱うときの注意点 営業には規制も
日本産のフグは、フグの種類や部位、漁獲場所によって、食べてもよい部分と食べてはいけない部分が国によって定められています。しかし、フグの種類の判別は素人では難しく、食用可能な部位も種類によって異なるので、素人判断で取り扱うことは非常に危険です。
例えば、食べることができるサバフグやコモンフグには、それぞれ毒を持っているドクサバフグ、コモンダマシという外見がそっくりな魚がいて、すぐに判別するのは難しいでしょう。
また、食品衛生法により、飲食店でフグの肝を提供したり、魚屋が肝のついた丸フグを販売したりすることは禁じられています。違反すると、食品衛生法第60条により営業停止などの処分が行われます。
フグを処理した営業を行うには、フグの種類を鑑別するための知識や、有毒の部位を除去する技術を持ったフグ調理師免許取得者を配置する必要があります。
養殖フグには毒がない!?
近年では、養殖された毒のないフグが販売されるようになりました。フグの毒を抜くことはできるのでしょうか?
実は、フグは体内で毒を作るのではなく、テトロドトキシンを持つ生物の死体やプランクトン、海洋細菌などから毒を得ていると考えられています。外界からとりこんだ特定の物質は分解・排出されにくく、高い濃度で体内に蓄積していきます。これを生物濃縮といいます。
フグはテトロドトキシンに耐性があるため、毒性を持った餌を食べて毒を蓄積し、濃縮してしまうのです。これを防ぐために養殖では、フグがテトロドトキシンを蓄積しないように餌や飼育水を管理する必要があります。こうして育てることで、毒を持っていないフグを育てることができるのです。
しかし、フグが毒を持つメカニズムそのものははっきりしていないこと、肝臓での無毒が証明されていないことなどから、養殖のフグであっても肝の食用や、調理免許なしでの調理は認められていません。
猛毒を持つフグ。素人は判別・調理をしないこと、中毒になってしまったらすぐに病院に行くことが大切です。特に取り扱いが難しい魚ですが、今後もフグ食の文化を大切にしていきたいですね。
(サカナト編集部)