東京大学、専修大学、アクセルワールド茨城県大洗水族館の共同研究チームによる論文「Low microbial abundance and community diversity within the egg capsule of the oviparous cloudy catshark (Scyliorhinus torazame) during oviposition」が10月22日に公表されました。
この研究では細胞数計測と群集構造解析を組み合わせることにより、トラザメの卵殻内における微生物環境を解析。卵殻内の微生物相及び卵生の板鰓類(ばんさいるい)の胚が、いかにして病原性細菌から守られているのか解明しました。
発生初期の胚は病原性細菌に弱い
今回の研究で用いられたトラザメは卵生のサメで、卵殻に保護された卵を産みます。
トラザメをはじめとする卵生の板鰓類は産卵から孵化まで数か月~1年ほどであり、多くの種では発生期間の1/3を過ぎた頃に「プレハッチ」と呼ばれる卵殻の内外を海水が出入りするようになる現象が起こります。
この現象以前である発生初期では病原性細菌に対する抵抗性は低いと考えられていたものの、実際に検証された例はありませんでした。
本研究では発生初期の胚を天然海水と抗生物質を添加した2種類の海水に暴露。20日間に及ぶ飼育をおこない胚の生存率を比較しています。
その結果、天然海水ではすべての胚が死亡したのに対して、抗生物質を添加した海水ではすべての個体が生存しました。これにより、発生初期の胚が病原性細菌に対する抵抗性が低く、発育には清潔な環境が必要であることが証明されたのです。
卵殻内の微生物相を解析
さらには卵殻内の微生物環境の解析も行なわれました。
本研究では卵殻内の細菌数計測、特定の遺伝子領域を増幅して配列を解析する16S rRNAアンプリコンシーケンスを用いて卵殻内の微生物環境を解析。
産卵直後から「プレハッチ」までの約2ヶ月は卵殻内の環境が海水と比較して細菌数が非常に少ないことが判明しました。
また、産卵直後の卵殻内の環境はスフィナゴモナス科の細菌が80%以上を占めている特殊な環境であることも判ったのです。
この細菌群は母トラザメの卵殻腺の上皮にも存在することから、宿主であるトラザメになにかしらのメリットを与えている可能性があるとされています。
本研究の結果は医療への応用や、絶滅に瀕している板鰓類の保全への貢献が期待されています。
(サカナト編集部)
※2024年11月2日時点の情報です