ノリは日本の食卓に欠かせない重要な食材で、おにぎりや寿司はもちろんのこと佃煮などでも食されています。
ノリは漢字で“海の苔”と書くことから海の生き物というイメージが強いですが、実は川でも海苔が採れるのを知っていますか?
「カワノリ」と「川のり」
カワノリ(Prasiola japonica)は「川海苔」「河海苔」「川苔」とも表記される淡水性の藻類。関東から鹿児島県の太平洋に注ぐ河川(近年では日本海側でも生育地が見つかっている)の上流域に生息しています。
カワノリは名前に「ノリ」とつくものの、日本で食用として広く養殖されているウシケノリ目のスサビノリとは異なるグループ(カワノリ目カワノリ科)に属する藻類です。
カワノリ科には本種のような淡水性藻類のほか、Prasiola tessellataのような海産の種も知られています。
一方、高知県の四万十川河口で採取されるノリを「川のり」とも呼びますが、これは汽水域に生息するスジアオノリ(アオサ科)やヒトエグサ(アオノリ)を指しているので、カワノリとは異なるグループです。
古くは食用にも 珍しい貴重な食材として重宝
そんなカワノリですが、海産物が手に入らない山間部では重宝されていたほか、珍しい貴重な食材として献上品にも用いられていました。
カワノリを用いた薄い板状の乾燥製品は高級品として、多摩川苔(東京都)、芝川のり(静岡県)、桂川苔(山梨県)など産地の河川名を冠した特産品として知られていたようです。特に「芝川のり」は貴重な特産品として、徳川家康に献上されたと伝えられています。
現在、カワノリは各地で数を減らしており、環境省のレッドリスト(2020)では絶滅危惧II類(VU)に指定。生育地減少にともない生産量も激減しカワノリを食べる食文化も消えつつあります。
カワノリ減少の原因はコンクリート護岸により従来カワノリが付着していた岩の減少してしまったこと、水質の変化など複数の要因が考えられているようです(カワノリ生育地域の環境と人間生活との関わり)。
しかし、原因を特定するのは困難であり、今後も研究が必要とされています。
秩父産のカワノリは大正天皇に献上された?
各地で特産品とされていたカワノリですが、埼玉県と東京都を流れる荒川も生育地として知られているようです。
実際に『新編武蔵風土記稿』の秩父郡浦山村の土産のひとつとしてカワノリが挙げられているほか、埼玉県行政文書には、この秩父のカワノリが大正天皇に献上されたという記録も残っています。
一度目の献上は大正2年のこと、宮内庁の侍従から秩父産カワノリの調達を依頼された当時の埼玉県知事は秩父郡長に生産調査を依頼しました。季節外れながら大滝村に60枚、名栗村に48枚の自家用のカワノリが残っており、計108枚が献上されました。
同年、8月には二度目の献上があり、その際には250枚が献上されたそうです。
カワノリは渓流でとれる希少な生き物
かつて、献上品としても利用されたカワノリですが、現在は生育地の減少によりその食文化は失われつつあります。
今後研究が進み、カワノリの保全活動も進んでいくことを願うばかりです。
(サカナト編集部)