3月8日は「サバの日」。
サバに対して、恋にも近いような特別な感情を持っている人はなかなかいないと思います。きっと、「サバについてあまり考えたことがない」という人が大半でしょう。
しかし、この日本にサバを愛する人がいます。それが歌人・谷じゃこさんです。
谷じゃこさんが制作するZINE(個人や小規模グループが作成する冊子や印刷物)『鯖しかみえない』を通して、キラキラと輝くサバの魅力に触れてみませんか?
サバZINEの第一弾「鯖のいる情景」
谷じゃこさんのサバZINEの第一弾は『鯖のいる情景』。
『鯖しかみえない』を語る上で、まずこのZINEを紹介しなければなりません。

『鯖のいる情景』はそのタイトルの通り、生活を通して感じるサバの気配に気付く短歌・川柳を多数掲載。
五七五七七、五七五という限られた音数に、サバの魅力がぎゅっと詰められています。それはまるでサバ缶のように!
行き先は鯖とみどりの窓口に(『鯖のいる情景』より)

日常の背後に、いつでも鯖がいる人にしか詠めない歌がたくさんです。
本当に<鯖しかみえない>!
そんな『鯖のいる情景』の続編とも言える『鯖しかみえない』は、鯖短歌、鯖川柳、鯖ミニエッセイ、鯖イラストと、前作の内容と比べて、さらにバージョンアップ。よりサバを感じることのできる内容となっています。

パステルな色調と立体感のある印刷に、アクセントとなる青い糸で綴じてあるのもまたお洒落。この青いアクセントは本文の色ともリンクします。もしかして、この色って…? 随所にこだわりを感じる製本で、ページを開く前から既に最高!
掲載されている短歌はなんと38(サバ)首! 五七五七七の31音、ときにはそれに川柳を合わせた48音で、サバ一色の世界を作り出します。
エッセイでも、サバに関する内容が惜しみなく語られます。軽快な文調で、サバへの愛を、食べる、見る、想像する…色々な切り口から紡ぎます。

全ページに掲載されたイラストは、谷じゃこさん自身によるもの。短歌に合わせたかわいいイラストを堪能することができます。随所に鯖愛を感じる一冊となっています。
常に、いたるところにサバが見えているひとの視点。サバの魅力に気付かされると同時に、「好き」とはなにか、私にとっての「サバ」とは何か……。終盤になるにつれ、そんな疑問も浮かんでくるような。
無加工で鯖の素材がいいからね(『鯖しかみえない』より)

ときどきシュールでユーモアたっぷり。谷じゃこさんとサバが作り上げる童話のような不思議な世界観も、このZINEの魅力です。
谷じゃこさんが語る「サバの魅力」
『鯖しかみえない』作者の谷じゃこさんに、サバの魅力について聞いてみました。
「私はしばしば、エア鯖を持ちます。親指と残りの4本の指で支えるようにして、肩幅より少し狭いくらいの位置で両手を上に向けて、立派な鯖を持っている気持ちになるのです。
鯖のお腹はふっくらして、背中はむっちり張りがあります。手を動かすと背中の模様がメラメラ光り、あまり見つめていると宇宙にワープしそうになります。
おっと、尾びれのビンタを喰らいました。いくつもの海を渡る回遊魚なので、力強いキックに注意してください。
目は大きくくりっとして、うるうる黒目のなんとかわいいこと。口角の上がった口を見ていると、こちらも思わずニコッとしてしまいます。
そして、本当に美味しい。ここからはエア鯖じゃなく、近所の食堂やご自宅で味わってください。
ふっくらお腹の脂身、むっちり背中の弾力、尾びれを支える筋肉の締まりを、お箸を差し入れた瞬間から感じられます。ジリジリと焼かれても、くたくたに煮付けられても、背中の青色は光を失うことはありません。
魚類として地球の青を代表する鯖。頼もしいです。ずっとついていきます」
谷じゃこさんによる『鯖しかみえない』は、谷じゃこさんのオンラインストアのほか、サカナに特化した本屋「SAKANA BOOKS」(東京都新宿区)などで取り扱いがあります。
新しい手帳を鯖が埋め尽くす(『鯖のいる情景』より)
(サカナトライター・うえの かのん)