生物学をはじめ様々な分野の研究に欠かせない「モデル生物」は、飼育が容易であること、繁殖力が高いことなどの特徴を持ち、魚ではゼブラフィッシュがその代表例です。
現在、ゼブラフィッシュとは違い、高温下でも生育可能な新たな研究モデルとなる魚として、「ドクターフィッシュ」とも呼ばれるガラ・ルファが注目されていますが、ゲノム情報の不足などが研究の妨げとなっています。
そのような中、三重大学大学院医学系研究科と三重大学ゼブラフィッシュ研究センターを中心とした研究チームは、世界で初めてガラ・ルファのゲノム配列を染色体レベルで解読しました。この研究成果は『Scientific Data』に掲載されています(論文タイトル:Chromosome-level genome assembly of the doctor fish (Garra rufa))。
代表的なモデル生物にも欠点がある?
モデル生物とは、生物学をはじめとするその周辺の分野の研究で用いられる生物のことです。
従来、モデル生物としてよく利用されている魚としてはメダカやゼブラフィッシュが知られており、これらの魚は飼育が容易であること、繫殖力が高く世代交代が早い特徴があります。

ゼブラフィッシュは広く用いられる一方、ヒト由来のがん細胞を移植した研究は困難でした。
また、新たなモデル生物として、高温でも飼育が可能なガラ・ルファが注目されていましたが、ゲノム情報の不足が研究の妨げとなっていたのです。
高温環境で生存可能な魚<ガラ・ルファ>
ガラ・ルファとはコイ科の淡水魚で、ガラ・ルファの呼び名は学名のGarra rufaを日本語読みしたものです。

本種は主に中東地域の河川及び温泉に生息し、37度の高温環境でも生存可能という特異な生態を持ちます。古くから魚治療法(ichthyotherapy)として皮膚疾患治療に用いられており、「ドクターフィッシュ」の名は多くの人が聞いたことがあるのではないでしょうか。
現代においても、本種を利用したサービスは各所で見られるほか、インドネシアではガラ・ルファの養殖が行われており、観賞魚としても流通しています。
<ガラ・ルファ>を染色体レベルで世界初解読
三重大学大学院医学系研究科と三重大学ゼブラフィッシュ研究センターを中心とした研究チームは、インドネシアとオーストラリアとの共同研究によりガラ・ルファの高精度な染色体レベルのゲノム配列を世界で初めて解読しました。
これによりゲノムサイズが約1.38ギガベースで、25本の染色多構造を持つことが分かったのです。
加えて、高温環境下で重要になる熱ショックタンパク質関連遺伝子群や熱ショック因子遺伝子のゲノム中の位置が網羅的に同定されました。
ヒト由来がん細胞研究の加速に期待
今回の研究により、ゼブラフィッシュとのゲノム比較が可能になり、遺伝子機能解析やゲノム編集技術の応用範囲が拡大したといいます。
研究で得られたガラ・ルファのゲノム情報を活用し、ヒト由来のがん細胞や感染症研究が加速されることが期待されています。
(サカナト編集部)