寄生性の生物は多く存在し、寄生性貝類や寄生性甲殻類など様々な分類群で知られています。
寄生性のフジツボであるフクロムシ類はカニやヤドカリなどの甲殻類に寄生する生物です。このグループは宿主体内に根を張ることで、繁殖能力を奪いつつ自らの繁殖を行う「寄生的去勢者」として知られています。
また、フクロムシ類は生殖機能を奪うだけでなく、オスの宿主に特徴的な形態の発達を妨げ、体をメスのように変化させる「形態的雌化」を引き起こします。
今回、神奈川大学理学部などからなる研究グループは「形態的雌化」に着目。この現象の程度がフクロムシの種や宿主の種によって異なることを明らかにしました。
この研究成果は『Zoological Letters』に掲載されています(論文タイトル:Morphological feminization in hermit crabs (family Paguridae) induced by rhizocephalan barnacles)。
寄生性のフジツボ「フクロムシ」
寄生性の生物は様々な分類群に存在し、寄生性貝類やウオノエなどが知られています。

フジツボの仲間でも寄生性のグループが知られており、フクロムシ類はカニやエビ、ヤドカリなどの甲殻類に寄生する生物です。このグループは宿主の体内に根を張ることで、宿主の繁殖能力を奪いつつ自らの繁殖を行う「寄生的去勢者」としても知られています。
オスをメスのように変化させる
フクロムシ類の寄生は繁殖能力を奪うだけではありません。
このグループは、オスの宿主に特徴的な形態(メスより大きい体や鋏脚)を発達を妨げ、オス宿主の体をメスのように変化させる「形態的雌化」を引き起こします。
形態的雌化の程度は種によって異なる?
これまでの研究で、フクロムシが誘導する形態的雌化は飼育観察で報告されているものの、異なるフクロムシ種が異なるヤドカリ種に与える影響の違いは不明でした。
そのような中、神奈川大学理学部の大平剛教授、総合理学研究所の梶本麻未客員研究員、東北大学の岩﨑藍子助教、広島大学の豊田賢治助教らからなる研究グループはこの形態的雌化に着目。
北海道小樽市で採集されたケアシホンヤドカリと千葉県南房総市で採集されたホンヤドカリおよびそれに寄生するフサフクロムシとナガフクロムシを対象に調査が行われました。
2種のヤドカリとフクロムシを比較
今回の研究では、ケアシホンヤドカリとホンヤドカリについて、フクロムシに寄生されていない未寄生のヤドカリと寄生されている寄生ヤドカリを比較しています。

これらのヤドカリの中で、本来はメスのみで発達する第2腹肢(卵保護を行う器官)を持つオスのヤドカリの数、右側のハサミ脚のサイズを比較し、フクロムシの寄生によりオスのヤドカリがどの程度メスらしくなったのか定量的に評価が行われました。
第2腹肢の比較
比較の結果、ケアシホンヤドカリとホンヤドカリのどちらの種も、フクロムシに寄生されたオスの一部に第2腹肢が認められています。特にフサフクロムシに寄生されたオスのヤドカリで出現頻度が高かったようです。
また、ケアシホンヤドカリではフサフクロムシに寄生されたオスのヤドカリのみ、鋏脚のサイズが未寄生のオスと比較して小さくなっており、メスに近い大きさが示されています。
一方、ホンヤドカリではフサフクロムシとナガフクロムシのどちらに寄生された場合でも、鋏脚のサイズが小さくなっていることが判明しました。
鋏脚の比較
鋏脚のサイズにおいても違いがみられ、サフクロムシに寄生されたオスのヤドカリは、未寄生ヤドカリと比較して小さいことが明らかになっています。
特にホンヤドカリの方がケアシホンヤドカリよりも、寄生ヤドカリの鋏脚が未寄生と比較して小さくなっており、より雌化が進行していたことがわかったのです。
一方、ナガフクロムシに寄生された場合、この傾向は見られなかったといいます。
1
2