日本にヌタウナギと呼ばれる生物がいますが、実はこの生物、ウナギでもなければ魚でもありません。
ウナギでなければなんなのか? この記事ではヌタウナギについてご紹介します。
厳密に言うと魚じゃない?
ヌタウナギはヌタウナギ目ヌタウナギ科に属する生物であり、本種を含め2属8種の日本産ヌタウナギ科が知られています。本種は眼が退化的であること、鱗がなく体表が非常に滑らかであること、鰓孔(えらあな)が6対であること、顎を欠くことが特徴でヤツメウナギと共に無顎類に含まれます。
また、本種は脊椎動物亜門に分類されるものの、体を支えているのは脊椎動物の発生の過程で形成される脊索と呼ばれる軟らかい構造と痕跡的な脊椎のみです。
ヌタウナギ類は約5億年前に脊椎動物と分岐した、いわゆる「生きた化石」。原始的な特徴を残したグループで、脊椎動物の進化の秘密を紐解く上で重要な生物と考えられています。
これらの特徴から無顎類を魚類と異なったグループとする見解もあれば、無顎類も魚類とする見解もあります。今のところ日本の魚図鑑はヌタウナギが掲載されていることが多いですね。
「ぬた」を出すからヌタウナギ
ヌタウナギ科の生物は深海を中心に生息する種が多く、非常に深い水深に分布する種もいます。そんな中、ヌタウナギは浅い海にも出現する珍しい種であり、漁業においてよく見られる種でもあります。
ヌタウナギはかつて、眼が退化的であることから「メクラウナギ」という標準和名が与えられていましたが、差別的な意味合いがあるとされ「ヌタウナギ」に改称されました。
ヌタウナギの和名の由来は本種が「ぬた」のような粘液を放出することにちなみます。ヌタウナギの粘液は分泌後、周囲の海水をゲル化させ、さらに大量の粘液を作りだします。これは捕食者に対する防御と考えられているようです。
ヌタウナギは韓国で需要がある?
そんなヌタウナギですが、韓国ではコムジャンオと呼ばれ、非常に需要が高い海産物として知られています。ヌタウナギの体を支える脊索は軟らかいため、ぶつ切りにしたものが焼き物やコチュジャン炒めで食べられているようです。また、本種の皮膚は非常に丈夫であることから革製品に使用され、イールスキン(Eel Skin)と呼ばれています。
日本でも各地の筒漁、籠漁、底引き網、定置網などで漁獲があるものの、国内需要が低いため広く流通しません。実際、国内屈指のヌタウナギの水揚げ量を誇る島根県では、そのほとんどが韓国へ輸出されているそうです。
しかし、日本でも全く食用にしない訳ではありません。秋田県男鹿市ではクロヌタウナギを天日干しした「棒アナゴ」が珍味として作られています。ヌタウナギが敬遠される理由の一つに「粘液の多さ」がありますが、本製品は粘液を取り除いて加工されているため、非常に調理しやすいものとなっています。また、相模湾にはヌタウナギ専門の漁師さんがおり、冷蔵・冷凍製品の他、棒鰻の直売や通販も行っています。
一見、ヌタウナギはグロテスクな姿をしていますが、食べてみるとホルモンのような食感で非常に美味しい食材です。その上、脊椎動物の進化の謎を紐解く上で欠かせない生物でもあります。今後もヌタウナギから目が離せませんね。
(サカナト編集部)