ドイツの生物学者ハンス・ドリーシュは19世紀末、2細胞期のウニ胚を分離すると、それぞれの細胞から完全なウニの幼生が形成されることを初めて示しました。
この現象は「調節発生」と呼ばれるもので、生物の発生があらかじめに決められたものでなく、柔軟に自己組織化できることを示した歴史的な発見だったのです。
しかし、この現象の詳細なメカニズムは100年以上の年月を経ても謎に包まれていました。
そうした中、筑波大学の谷口俊介准教授らによる研究グループは分離したバフンウニの2細胞期のウニ胚を観察。完全な個体へと発生するメカニズムを明らかにしました。
この研究成果は『Nature Communications』に掲載されています(論文タイトル:Unraveling the regulative development and molecular mechanisms of identical sea urchin twins)。
19世紀末の大発見
19世紀末のこと、ドイツの発生学者ハンス・ドリーシュは2細胞期のウニ胚を2つに分離すると、それぞれの細胞が完全なウニに成長することを初めて示しました。
このことは歴史的な大発見であった一方、完全なウニが形成される詳しい仕組みについては長年謎とされており、100年以上もの間、詳しいことはわかっていませんでした。
こうした中、今回の研究ではウニ胚を用いた実験で、胚を半分にしても完全な2個体が形成される仕組みが分子レベルで解明されています。
バフンウニを用いた研究
まず、研究ではバフンウニを用いて実験が行われました。
バフンウニの2細胞期(受精卵が最初の細胞分裂を終えた段階)のウニ胚を人為的に分離。それぞれの半胚がどのように発生していくのか詳しく観察されています。

観察の結果、通常の胚では細胞分裂を経て中空の球状の胞胚になる一方、半胚では一度シート状に広がった後に、杯状、球状へと形を変化させ、最終的に小さな胞胚となることが明らかになりました。
さらに、この胞胚は正常な胚よりもやや小さいものの、ほとんど通常な胚と同様の発生過程を経て健全なウニ幼生へ成長したのです。
最終的には正常な個体へ発生
研究では、このような形態変化を支えているメカニズムを解明すべく、分子生物学的手法と光学顕微鏡を用いた観察も行われました。

その結果、タンパク質複合体であるアクトミオシンの収縮と細胞間をつなぐセプテートジャンクション(細胞間で見られる接着構造で主に無脊椎動物で見られる)が協調し働くことにより、細胞シートが球状へと姿を変えることがわかったのです。
また、この過程おいてシート状の細胞配置では、頭とお尻を結ぶ軸が一時的に乱れるものの、その後は正常化し背と腹を結ぶ軸も問題なく形成されることが確認されています。
再生医療への貢献も期待
今回の研究により、ウニ胚が初期段階で半分になってもそれぞれの細胞が自律的に形を整え、完全なウニになるメカニズムが明らかになりました。
この成果は「なぜ1つの受精卵から2つの命」が誕生するのかという謎に対し、重要な知見を与えるとともに、再生医療などへの貢献が期待されています。
(サカナト編集部)