「新種」というと、深海や極地など人の目の届かない場所から発見されるイメージがあります。
しかし、意外にも新種は身近に存在し、1種と考えられていた普通種に複数の種が含まれていることも少なくありません。
別種にもかかわらず、外見での難しいことから同種とされていたものは隠蔽種と呼ばれ、新種として記載される種ではこういったケースが多々あります。
今回、新種記載されたアリアケアカエイもその一例で、アカエイの隠蔽種です。
外見での区別が難しい隠蔽種
新種と聞くと深海や極地など、人が立ち入らない極限環境から発見されるイメージを持つ人が多いかもしれません。
実際にそういった新種も多く存在しますが、新種というのは意外にも身近なところにも存在しているです。
特に普通種に隠蔽種が含まれている場合では、そういった傾向があるかもしれません。隠蔽種とは別種にもかかわらず、外見での区別が困難であることから同一種とされるものです。
例えば、2024年に新種記載されたミナミスナヤツメなどが該当します。
アカエイの記載
隠蔽種では古くからその存在が知られていたものの、分類学的な混乱により新種記載されないまま長い年月が過ぎるものもいます。
今回、長崎大学の山口敦子教授と古満啓介研究員が新種記載したアリアケアカエイも、長年存在が知られていた隠蔽種のその1つです。
アカエイ(提供:PhotoAC)アカエイ Hemitrygon akajei は1841年に日本各地で採集された6個体の標本に基づき、ミュラーとヘンレにより新種記載された魚で、6個体とも形態がよく似ることから、すべて同種と考えられてきました。以降、アカエイは1種として扱われます。
長いことアカエイが1種とされる中、長崎大学の研究チームは有明海に外見で区別することが難しいアカエイ属の魚が複数種いることを発見します。
2010年には隠蔽種の存在を明らかにし、新和名「アリアケアカエイ」を提唱。しかし、アカエイは分類学的な混乱があり、その後15年間にも及ぶ調査・研究が行われました。
2025年<アリアケアカエイ>が新種と判明
そして2025年、ついにアリアケアカエイが新種であることが判明しました。
有明海の島原沖の個体をホロタイプ(新種記載の時、その学名の基準となる唯一無二の標本)とし Hemitrygon ariakensis と命名されました。種小名の“ariakensis”は「有明海」が由来です。
アカエイ(提供:PhotoAC)研究では、ミュラーとヘンレが新種記載の際に用いたアカエイ6個体の中に、アリアケアカエイと思われる標本の存在も明らかになっています。
つまり、アカエイが新種記載された1841年から約160年もの間、アカエイとアリアケアカエイは混同されていたということになるのです。また、グラバー図譜に描かれていたアカエイは、実際にはアリアケアカエイであることも判明しています。
アカエイとアリアケアカエイの見分け方
気になるアカエイとアリアケアカエイの見分け方ですが、主に2つのポイントが挙げられます。
まず尾の下面にある皮褶(ひしゅう=皮膚でできたひだのようなもの)です。アリアケアカエイではこの皮褶が黒く、縁辺が白色なのに対し、アカエイでは白い縁取りがありません。
また、アリアケアカエイではアカエイと異なり、腹側の5番目の鰓孔(さいこう)付近に横溝があることが特徴です。さらに、両者は生態も異なることが明らかになりつつあるといいます。
身近な魚にも隠蔽種がいるかもしれない
長崎大学の研究によって、160年もの長い期間、アカエイと混同され続けていたアリアケアカエイが新種として記載されました。
なによりも、アカエイのような身近な魚に、複数の種が含まれていたという事実に驚きます。
今回はアカエイでしたが、今後の研究でも身近な魚に複数種含まれていることが明らかになるかもしれませんね。
(サカナト編集部)