海では様々な生存戦略が繰り広げられています。
中でも生殖戦略は生物の繁栄に欠かせない要素であり、独特な繁殖様式を持つ種も少なくありません。
例えばクラゲにおける繁殖では、多くの種で光の刺激を受けてから、数時間以内に産卵することが知られています。
しかし、宮城県出島で採集された Clytia sp. IZ-D は他のクラゲを異なる戦略を持っていることが明らかになりました。
この研究成果は「PLOS Biology」に掲載されています(論文タイトル:A light-entrained clock mechanism in a hydrozoan jellyfish synchronizesevening gamete release)。
海の生きものたちの生殖戦略
多種多様な生物が暮らす海では、実に巧みな生存戦略が繰り広げられています。
中でも繫殖様式の違いは多くの生物で見られる生存戦略の1つです。クラゲの繁殖においては、多くの種で光の刺激(明刺激)を利用し、受精を成功させていることが知られています。
例えばClytia hemisphaerica は明刺激から2時間後に産卵するクラゲです。本種の卵母細胞は明刺激により生殖巣から分泌された卵成熟誘起ホルモンを受容し、2時間かけて卵成熟を進行させます。
一方で、明刺激とは真逆の暗い刺激に反応するエダアシクラゲのような種もいるようです。
これらの明刺激と暗刺激は1日に1回ずつ発生するため、クラゲの産卵は24時間周期で繰り返されるといいます。
他のクラゲと異なる産卵
先述の通り、Clytia hemisphaerica をはじめとする多くのクラゲが明刺激から1~2時間で産卵をすることが知られていました。
しかし、宮城教育大学の橘井瑠伽大学院生らから成る研究グループは、飼育下における実験観察により、宮城県の出島(いずしま)から採集されたClytia sp. IZ-Dがこれらとは異なる生殖戦略を持つことを発見したのです。
明暗を調整して実験
研究ではClytia sp. IZ-Dを明暗時間をそれぞれ12時間に設定した飼育実験が行われました。
その結果、明から暗への移行から2時間後に産卵を繰り返し行うといった行動が観察されています。当初、明から暗(暗刺激)に反応していると思われていたそうですが、研究グループは明暗時間の長さを変えた実験により、実は本種が明刺激に反応していることを突き止めます。
宮城県出島(提供:PhotoAC)驚くべきことにClytia sp. IZ-Dは明刺激から14時間も経ってから産卵を行っていたのです。さらに、光をあて続ける実験では本種が20時間周期で産卵を繰り返すことも判明しています。
これらのことから、Clytia sp. IZ-Dが20時間周期で自動的に産卵する機能を持つ一方で、明刺激がそれを24時間周期に調整していることが示唆されたのです。
新たな生物時計を獲得
独特な繫殖をするClytia sp. IZ-Dですが、明刺激から2時間で産卵するClytia hemisphaerica と卵母細胞の成長過程などは基本的に同じだといいます。
一方、研究ではClytia sp. IZ-Dが一定周期で自動的にホルモンの分泌や受容をするように変化していることが明らかになりました。このことから、ホルモンの分泌や受容の制御に基づく、新たな“生物時計”を獲得したと考えられています。
Clytia sp. IZ-Dはこの“生物時計”により、近縁種から種分化した可能性があるとのことです。
種分化の解明に貢献
今回の研究によりClytia sp. IZ-Dが、明刺激から14時間で産卵するという珍しい方法で繁殖をすること、本種が新たな“生物時計”を獲得していることが明らかになりました。
この成果はクラゲにおける生殖戦略や種分化を解明する上で重要な知見になっていくでしょう。
(サカナト編集部)