2024年5月18日、東京農業大学生物産業学部の調査チームにより、北海道網走市沿岸で1頭のセミクジラが観察されました。
北海道オホーツク海沿岸におけるセミクジラの記録は1968年以降途絶えていたものの、2013年以降に相次いで目撃。2024年のセミクジラの観察は5例目となりました。
この研究成果は「日本セトロジー研究」に掲載されています(論文タイトル:北海道網走沿岸におけるセミクジラ(Eubalaena japonica)の観察記録)。
乱獲で数を減らしたセミクジラ
セミクジラ Eubalaena japonica はセミクジラ科に属する大型の鯨類です。
セミクジラ科は4種が知られており、中でもセミクジラ属(Eubalaena)は遊泳速度が遅く、岸近くを回遊することから発見が容易であること、鯨油が多く生産できるなどの理由から、古くから捕鯨の対象となっていました。
捕鯨の対象となったセミクジラ類は乱獲により個体数を減らし、20世紀初頭には極めて低いレベルまで減少。これによりセミクジラ類は1953年より国際的に保護されることになったのです。
以降、日本では1956年から1968年に特別科学調査の捕獲許可のもと、セミクジラ13頭を捕獲したことが報告されています。
近年における西部太平洋のセミクジラ個体数は、JARPNⅡに目視調査記録に基づき、416(2008年)~1147頭(2011~2012年)と推定されており、個体数が十分に回復したとは言えない状況。セミクジラはIUCNのレッドリストで絶滅危惧カテゴリーのうちEN(危機ENDANGERED)に指定されています。
こうした状況でセミクジラを保全するためには、広域な個体数の推定だけでなく、地域レベルでの情報収集と発信・共有が重要とされています。
北海道オホーツク海のセミクジラ
北海道のオホーツク海におけるセミクジラの記録は1968年を境に長年途絶えていました。
しかし、2013年7月に知床半島西方でセミクジラが目撃されたことを皮切りに、その後は2018年、2019年、2023年と継続的にセミクジラの目撃記録が得られています。
今回、報告されたセミクジラは2024年5月18日に網走市能取岬からの目視調査で発見されたものであり、1968年以降5例目となりました。
能取岬からの風景(提供:PhotoAC)なお、セミクジラは発見された後に、特殊な機器を用いた浮上地点の測定による追跡を実施。能取岬からの観察のあと、網走港から出港予定のホエールウォッチング船に情報を共有し、船上からの観察・記録が実施されました。
船上からセミクジラを観察
船上からの観察では、網走港を午前9時に出向したホエールウォッチング船が大型鯨類を発見しています。
周囲の漁具との比較で体長15メートル以上と推定され、外部形態の特徴からセミクジラと同定されました。この個体は陸上から観察されたセミクジラと同一個体と考えられたものの、陸上から個体識別のキーとなる形質が確認できていないことから、別固体や複数個体の来遊していた可能性も否定できないとされています。
船上からはこの個体が能取岬周辺に設置された漁具に繰り返し接近する様子が観察されました。
さらに、午前9時39分頃にはロープが絡まり、暴れる様子が確認されています。後にロープは外れ、岸の反対方向へ進行方向を変更。午前9時50分に洋上での追跡が終了しました。
このような観察記録は、沿岸性の強いセミクジラにおいて、漁具への接近や絡まり、混獲のリスクが高いことを示しています。
モニタリングを継続
今回の報告は北海道オホーツク海沿岸におけるセミクジラの記録だけでなく、セミクジラが北海道でも沿岸を回遊すること、沿岸漁業が盛んなエリアで大型鯨類が漁具に絡まる可能性があることを明らかにしました。
調査チームは引き続き同海域でモニタリングを継続するとのこと。また、今回の事例を踏まえて、混獲防止策や、網に絡まった個体を救助体制が求められているとしています。
(サカナト編集部)