広大な海の中で、あまりにも小さく弱い存在である「幼魚」。しかし、彼らは驚くべき知恵と勇気で、その命をつないでいます。
「10匹いれば10通りの生存戦略がある」
そう語るのは、静岡県清水町にある幼魚水族館の館長である鈴木香里武(すずき・かりぶ)さんです。0歳の頃から漁港に通い、足元の海を見つめ続けてきた香里武館長は、なぜ「幼魚」に惹かれたのでしょうか。
今回は幼魚の生態からわかる面白さと、彼らの「生き様」から伝わる魅力についてお話を伺いました。
厳しい海を生き抜く幼魚の「生き様」に惹かれて
━━幼魚に惹かれたきっかけはありますか?
魚との出会いは、0歳の頃からです。遊び場といえば漁港で、気がつけばタモ網を握って足元で魚をすくっていました。
すくった魚を自宅で育ててみると、成長するにつれて変化していく姿に気づきます。そこで彼らが「赤ちゃん(幼魚)なんだ」と気づいたことが、幼魚に興味をもつきっかけでした。
ハコフグの幼魚(提供:taku/撮影場所:幼魚水族館)幼魚の飼育や観察をしていくなかで、トゲトゲだったり透明だったり、多種多様な見た目の違いに気づきました。調べてみると、そこには広大な海で生き抜くための生存戦略があります。
幼魚の小さな体には壮大な物語が詰まっていて、10匹いれば10通りの生存戦略で生き抜いている“生き様”の部分に惹かれていきました。
━━幼魚の生き様を意識するようになったタイミングは覚えていますか?
タイミングというよりも日々の積み重ねではあるのですが、一つ例を挙げると、毒のあるアカクラゲに突っ込んでいる幼魚を見つけたときです。
当時はクラゲの毒で身を守る生態を知らなかったので、それはもう心配になるくらいの勢いで突っ込んでいく幼魚の姿に驚きました。
ライフジャケットを着て岸壁採集をする香里武館長(提供:鈴木香里武館長)幼魚にとって、アカクラゲの毒は危険なものです。それでも危険を恐れず、命を守ることを優先する姿が勇者のように見えました。
そんな一つひとつの発見が積み重なり、幼魚たちの“生き様”というものに魅力を感じています。
幼魚だから見られる「成長」の面白さ
━━幼魚ならではの(成魚にはない)特徴や魅力を感じる要素はありますか?
やはり「生き様」だと思います。小さな体だからこそ、必死になって身を守らないと大海原で生き残れないんですよね。
必死にいろんな工夫をして、斜め上の方向に進化して。成魚になれば簡単には襲われませんが、幼魚には生存戦略の工夫が必要です。
コンビクトブレニーの幼魚と成魚(提供:taku/撮影場所:幼魚水族館)あとは「成長していく」という変化にも面白さがあります。
透明な姿だった幼魚も、翌日には色がついたり、さらに翌週には模様が出ていたりとか。けっこう早いスピード感で見た目や生き方が変化していくので、その「成長」を楽しめるのも幼魚ならではの魅力だと思います。
━━たしかに、幼魚水族館の展示を見ると魚の成長(変化)を実感できます。
水族館に限らず、幼魚を伝えるときには「生き様の物語」を大事にしています。単純な生態解説では、少しだけ心の距離を感じてしまう可能性もあるからです。
幼魚水族館の解説パネル(提供:taku/撮影場所:幼魚水族館)例えば、毒のあるクラゲに寄り添って身を守っている幼魚がいたとします。少しだけ人間模様と照らし合わせてみると、何でもできると思われている人ほど、他人に頼るのが「ちょっと苦手」だったりするんです。
そんな人が命懸けでクラゲに頼って生きている幼魚の姿を見て、少しだけ「勇気を出して他人に頼ってみようかな?」と考えてくれるかもしれません。生き様の物語と人間模様を結びつけると、きっと心に届くと思います。