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北海道石狩湾で見つかった<カクレクマノミ>が放流個体であると確信する理由 飼育した魚の放流はダメ絶対

猛暑の2023年、北海道にも数多くの熱帯性海水魚が出現しました。これらのうち北海道臼尻で獲れた魚種については、2024年にまとめて発表されています。

一方、同じ北海道でも日本海に面した石狩湾で撮影された“ある魚”について、北海道のアクアリストや釣り人の中には「驚いた」という人も多かったのではないでしょうか。

なんと、カクレクマノミが北海道の石狩湾で撮影されたのです(本記事のトップ写真は海藻の海の中を泳ぐカクレクマノミの合成イメージ画像であり、石狩湾で撮影された写真ではありません)。

カクレクマノミとは

カクレクマノミはスズキ目・スズメダイ科・クマノミ属の海水魚で、観賞魚として人気がある魚です。

自然下ではサンゴ礁域やその周辺の砂地にすむハタゴイソギンチャクやセンジュイソギンチャクなどの大型イソギンチャクと共生することでよく知られています

筆者宅のカクレクマノミ(撮影:椎名まさと)

その分布域は奄美諸島以南、西太平洋~東インド洋のサンゴ礁であり、九州以北に死滅回遊魚として出現したと思われる事例はありません。

しかし驚くべきことにこのカクレクマノミが2023年8月26日、地元の釣り新聞の記者により、北海道の石狩湾で撮影されたのでした。

「海流に乗って来たわけではない」といえる理由

このカクレクマノミの石狩湾への出現については、フジテレビ系列局の北海道文化放送でも取り上げられました(猛暑で異変?北海道の海に“ニモ” 映画さながらの大冒険 クマノミ出現の謎を調査-FNNプライムオンライン )。

実際にその報道番組のなかでは、カクレクマノミが発見された場所を小1時間捜索するものの見つかることはありませんでした。また、おたる水族館の飼育員による「対馬暖流にのりそのまま北海道の方へ運よく辿りついたとしか考えられない」とのコメントも紹介されています。

一方で、その飼育員の方は「飼育されていた方が飼いきれなくて放流した可能性もないわけではない」とも発言されています。

番組では、最終的に「なぜクマノミが石狩の海にいたのか、さまざまな可能性が考えられそうだ」と締めていますが、筆者はこのカクレクマノミが飼育個体の放流である可能性がかなり高い(ほぼ100パーセント)と考えます。

理由を以下に示します。

理由その1:カクレクマノミは卵を保護する習性がある

カクレクマノミをはじめとするスズメダイ科の魚はみな卵を岩などに産卵し、孵化するまで親が卵を保護する習性があります。しかしそのような魚は分散力が乏しいもので、紅海やインドネシア周辺などの限られた地域にのみ生息している、なんていう種も多いのです。

卵を保護するカクレクマノミのペア(撮影:椎名まさと)

「同じスズメダイ科でもオヤビッチャなんかは北海道にもいるじゃないか」という声も聞かれますが、オヤビッチャ属の種は稚魚のうちは流れ藻などの浮遊物につく習性があることが多く、流れ藻について北海道にまで辿りつくことができたというもので、例外ともいえます。

理由その2:いきなり成魚が出現

石狩湾ではカクレクマノミの成魚はもちろん、幼魚も採集されたことはありません。

そんな中でいきなり成魚が出現したというのは、このカクレクマノミが人為的な放流である可能性が高いことを強く示唆するものといえます。

イソギンチャクの触手に包まれるカクレクマノミの成魚(撮影:椎名まさと)

大型のニザダイ科魚類やアジ科魚類などについては、幼魚が確認されていない地域においても「成魚の運搬」が行われるケースがありますが、カクレクマノミの成魚は常に大型イソギンチャクに身をよせ、自然下において成魚はイソギンチャクから離れて泳ぐというということはほとんどありません。

理由その3:カクレクマノミは浮遊するように泳がない

カクレクマノミの習性はよく知られています。

大型イソギンチャクと共生しており、種標準和名クマノミと異なり、宿主の大型イソギンチャクから離れることもほとんどありません。これは先述した通りです。

水槽内で表層を泳ぐカクレクマノミ(撮影:椎名まさと)

しかし、今回石狩湾で撮影されたカクレクマノミは中層から表層付近を浮遊するように泳いでいるように見えます。このようなカクレクマノミの習性は水槽で飼育され、人によくなれた個体においうて見られる行動ですが、自然界では見たことがありません。

なお、カクレクマノミが生息するようなイソギンチャクはやはり暖かい海にのみ生息するもので、石狩湾では見られず、万一見つかっても、カクレクマノミもイソギンチャクも冬の寒さに耐えられず死んでしまうものと思われます。

理由その4:カクレクマノミが放流された前例がある

2017年には和歌山県の串本でカクレクマノミが放流された事例があり、また山口県日本海岸にある長門市の海でもカクレクマノミが発見されています。

山から見下ろす山口県の日本海(撮影:椎名まさと)

和歌山県串本で放流されたカクレクマノミについては、多数のカクレクマノミだけでなく、カクレクマノミと共生するセンジュイソギンチャクや、やはり琉球列島以南にのみ見られるセジロクマノミが採集されているほか、水槽に置くための沈没船を模した飾りなども発見されていることから、人為的なものであることは明らかでしょう。

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椎名まさと

魚類の採集も飼育も食することも大好きな30代。関東地方に居住していますが過去様々な場所に居住。特に好きな魚はウツボ科、カエルウオ族、ハゼ科、スズメダイ科、テンジクダイ科、ナマズ類。研究テーマは魚類耳石と底曳網漁業。

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