気温が高くなり磯遊びに最適の季節となってきました。干潮時に露出する岩場やタイドプールでは多種多様な生物を観察することができます。
アメフラシはこの季節に磯へ行けば必ずと言って良いほど見かける生物で、ナメクジのような姿とゆっくりとした動きが特徴です。
この記事ではアメフラシについてご紹介します。
アメフラシとは
アメフラシはアメフラシ科に属する軟体動物の総称、または Aplysia kurodai の標準和名。種小名の kurodai は魚のクロダイではなく貝類学者である黒田徳米氏に因んで命名されました。また、アメフラシは頭部の突起がうさぎの耳にも見えることから英語では Sea Hares(海の野兎)と呼ばれています。
アメフラシは巻貝に近い仲間で既に貝殻は退化しているものの、外套膜の中には退化した貝殻があるそうです。草食性で海藻などを食べて暮らしており、寿命は1~2年ほど。大きさは30センチ程に成長します。
アメフラシの産卵期は春~夏、本種が産むひも状の卵塊は黄色~オレンジ色をしており、その見た目から「ウミソウメン」とも呼ばれています。なお、西洋圏ではしばしばスパゲッティに例えられることもあるそうです。
アメフラシの紫汁の秘密
アメフラシの特徴はなんといっても紫汁ではないでしょうか。
本種の天敵はウミガメ、ベラ科、イセエビやカニなどの甲殻類が知られており、逃げ足の遅いアメフラシは外敵に襲われると背中から紫汁を出して身を守ります。この紫汁が雨雲のように広がる様はアメフラシ(雨降らし)の和名の由来にもなりました。
アメフラシの紫汁は1種類の液体を放出しているのではなくインク腺とオパリン腺から2種類の分泌物を出しています。これらに含まれている物質は捕食者に摂食促進、摂食阻害の効果を与え混乱させる他、粘度が高いオパリンはロブスターなどの触覚に絡み付くことから、嫌がらせの効果もあるそうです。
また、インクとオパリンにはアミノ酸が含まれており、捕食者の食欲を刺激することが判明しています。捕食者の食欲を刺激したらまずいのではと思ってしまいますが、アミノ酸により捕食者がインクとオパリン及び周辺の砂を食べようとする偽食物作用が見られ、この隙にアメフラシは逃げることができるのです。
(参考:アメフラシ類の化学防御機構:捕食者と同種個体の化学感覚に働く複数の化学物質)
関東の磯でよく見られるアメフラシ
関東の磯でよく見られるアメフラシはアメフラシ、アマクサアマフラシ、クロヘリアメフラシ、タツナミガイが知られています。
タツナミガイは大型のアメフラシ科で体表に小さな突起が無数に存在することが特徴。岩場の隙間などでひっそりとしていることが多いので、気づかずに踏んでしまうなんてこともしばしば。本種は飼育用に販売もされています。
クロヘリアメフラシは縁が黒い小型のアメフラシで、色彩の特徴からアメフラシやタツナミガイと区別することができます。
アマクサアメフラシはアメフラシによく似ていますが、背中のひだが後方で繋がっていることが特徴。また、アメフラシと異なりアマクサアメフラシは白い汁を出すそうです。
アメフラシは食べられる?
アメフラシを見たことがる人ならば必ず疑問に思うことがアメフラシは食べられるのかということ。
結論から言うとアメフラシは食べられるそうです。アメフラシは日本各地に生息するものの食用としているのは島根県、鹿児島県、鳥取県、千葉県の一部のみ。島根県の隠岐ではアメフラシを「べこ」と呼び、内臓を除去して下処理したものを醤油で炊いて食べています。サザエやアワビを彷彿とさせる食感で非常に美味だそう(コラム|隠岐ガイドブックー海のめぐみ島のめぐみ)。
このようにアメフラシは食用となるものの草食性であるため、個体によって内臓に海藻由来の毒を蓄積している可能性があるとも言われているため、素人は調理しない方が無難かもしれません。
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