琉球列島からインド-西太平洋にすむツムギハゼは一見何の変哲もないハゼのように見えます。しかしこのハゼは毒をもっている個体が多く、食することができません。しかも近年は九州以北でも見られるようになりました。
食用になるマハゼと間違えたら大変なことになります。見分ける方法はあるのでしょうか。
ツムギハゼってどんな魚?
ツムギハゼ(学名Yongeichthys neblosus)はスズキ目ハゼ科ツムギハゼ属の魚です。全長は8センチほどで、体側には3つの黒色斑がならび、その黒色斑の後ろ上方に黒色斑があるのが特徴ですが、あまり特徴らしい特徴をもっていないハゼの仲間です。
しかしながら、このツムギハゼは絶対に覚えておかなければならない理由があります。実は、ツムギハゼは毒を持っているのです。
ツムギハゼの毒性
ツムギハゼはあまり特徴のないハゼですが、実は皮膚や筋肉などに毒があります。その毒はテトロドトキシン、つまりフグ科の魚が持っているものと同じ毒です。
この毒は個体や採集場所により毒性が異なっていて、無毒から強毒のものまであるようで、台湾では本種を食した人が亡くなるという事例も発生しています。
このツムギハゼが毒をもつ仕組みについてはよくわかってはいないというのですが、ツムギハゼとおなじようにマングローブ域に多く見られ、テトロドトキシンを有するオキナワフグを食べて毒化する可能性があるとされています(野口玉雄「フグはなぜ毒をもつのか」日本放送出版協会,1996年)。
ツムギハゼとマハゼを見分ける
このツムギハゼは主に奄美大島以南、琉球列島に分布していますが、高知県や宮崎県からも記録されています。ちなみにこの記事のトップ画像のツムギハゼは、宮崎市内の小川でマハゼと同所で見られたものです。
九州以北ではマハゼと同じ場所で釣れることもありますが、万が一ツムギハゼとマハゼとを間違えると大変です。
マハゼとツムギハゼを見分ける方法としてはいくつかありますが、概ねマハゼのほうがツムギハゼよりも細長いように思われます。体側の模様はツムギハゼは大きな斑紋が3つありますが、マハゼの斑紋は小さく数個ならんでいます。
マハゼとツムギハゼは第1背鰭の棘条数で見分けることもできます。ツムギハゼは第1背鰭に6本の棘がありますが、マハゼでは8本の棘があります。釣れた時にはよく観察してみましょう。
なお、この第1背鰭に8本の棘があるハゼというのは東アジアの沿岸部に見られ、ほかにアカハゼ、アシシロハゼ、ヤミハゼ、サビハゼ、ヌエハゼ、キヌバリ、ニシキハゼなどの種が該当します。
ツムギハゼは従来からヒトとの生活にかかわってきた種
強い毒を有するツムギハゼは食用にはできません。しかしながら逆にツムギハゼが毒を有することを利用して、奄美大島や西表島といった島々では殺鼠剤として利用されたという言い伝えがあります。また、愛嬌がある顔をしており、観賞魚として飼育されることもあります。
汽水域に生息するツムギハゼですが、飼育においては海水で問題ありません。逆に純淡水域では厳しいでしょう。
餌は動物質の餌をよく食べ、私が宮崎で採集したツムギハゼなど、同じ水槽に入れていたアゴハゼ2匹をペロリと平らげてしまっていました。もちろん配合飼料もよく食べてくれるので、飼育も容易です。
強い毒をもっているツムギハゼですが、従来からヒトとの生活にかかわってきた種ともいえます。現在北上しつつあるとされる、侮れないこのハゼ、ぜひお見知りおきを。
(サカナトライター:椎名まさと)