皆さんは「ウミウシ」という海の生き物を知っていますか?
小さく綺麗な生き物という印象を持つ人も多いかもしれません。
実はこの生物、特定の目や科の生き物がまとめてウミウシと呼ばれているわけではありません。この記事では、ウミウシとは何者かを紐解いていきます。
ウミウシは特定の分類群に属していない?
みなさん、ウミウシはどの分類群に分類される生き物かわかりますか? 無脊椎動物、軟体動物……までは想像することができると思います。
ウミウシは、軟体動物門のなかの腹側網に含まれています。この網は軟体動物のなかではもっとも種類数が多く、巻貝を持つ種が多いです。しかし、この網のなかには巻貝を失った種類も多く存在しています。クリオネやアメフラシ、ナメクジ……そして、ウミウシです。
ウミウシは巻貝を失った巻貝の仲間の総称。名前に「カイ」とつく種類が多いのは、まさに貝の仲間であることが理由です。
「ウミウシ」とは曖昧な呼び名
そして、さらに細かく分類を見ていくと、ウミウシと呼ばれる生き物は裸鰓類、頭循類、無循類などさまざまな分類群に属していることがわかります。
つまり、「ウミウシ=○○目の生き物」という風に分類群で定義することはできないのです。人気な生き物ながら、ウミウシとは曖昧な呼び名なのですね。
鑑賞生物として人気が高いウミウシ。採集は簡単ながら飼育は難しく、水族館でもなかなか長期飼育していることは珍しいです。
採集後の個体を展示していることもありますので、タイミングよく見つけられた場合はよく観察してみてください。派手な色彩やゆったり動きながら水の流れに揺れる姿は見た人を虜にする不思議な魅力があります。
ウミウシと呼ばれる生き物たち
分類が複雑なので、毒の有無や食性、生態もさまざまで、一口に「こういう生き物」と説明することはほとんど不可能です。しかし、どれも鮮やかで不思議な魅力を兼ね備えた生き物であることは間違いありません。
以下では、ウミウシの仲間たちを3種ピックアップして紹介していきます。
アオウミウシ
アオウミウシは日本で最も有名なウミウシと言っても過言ではありません。裸鰓目ドーリス亜目イロウミウシ上科イロウミウシ科アオウミウシ属に属しています。
青い体色に黄色い縁取りと模様が入っており、触覚と二次鰓は赤く、ポップな色彩をしています。
北海道以南の日本沿岸に広く生息していますが、南限は屋久島あたりだと考えられています。
寿命は約1年ほどであると推測され、個体数は多く採集・飼育は比較的容易な種。餌となるツチイロカイメン類が拳大ほど確保できれば長い間安定した飼育が可能です。
ミスガイ
オオシイノミガイ目オオシイノミガイ上科ミスガイ科ミスガイ属に属するのが、貝殻を背負ったウミウシがミスガイです。兵庫県以南の日本海~東シナ海側、福島県以南の太平洋側に生息します。
背負っている大きな貝殻から、青白く縁どられた薄いピンク色のフリルが覗いています。
感じで書くと「御簾貝」で、御簾とは平安時代の家屋(寝殿造)で用いられた美しい装飾的なスダレのこと。貝殻にある縞模様が御簾に見立てて種名が付けられたそうです(ミスガイー鳥羽水族館)。
生息地に属するミズヒキゴカイを餌としています。細長い口吻を持っており、ミズヒキゴカイが砂中に潜っても口吻を伸ばして捕食するそうです。口吻は白い個体と黒い個体がいるそうで、口吻が白い個体では獲物が飲み込まれていく様子が観察できるといいます。
ハナデンシャ
裸鰓目ドーリス亜目フジタウミウシ上科フジタウミウシ科ハナデンシャ属に属するハナデンシャ。山形県~鹿児島県本土の日本海~東シナ海側、千葉県~九州の太平洋側に生息しており、日本海側で特に多く発見されます。
普段は砂に潜り生活していますが、浮遊することが多いことで知られています。
浮遊したまま流された集団、個体が浜に漂着したり、定置網に入ったりすることもあるのだとか。餌は毒のないクモヒトデの仲間で、小型種であれば殻ごと、大型種であれば腕の先端から食べられる分を食べていきます。
飼育時には小さく刻んだクモヒトデの腕を毎日1~5本、クシノハクモヒトデを丸ごと毎日3~10個体与えると安定するそうです。
色彩豊かなウミウシの世界
ウミウシは知れば知るほど不思議な生物。興味深い生態や彩り豊かなウミウシの仲間、彼らの生活史など、ウミウシの世界はまだまだ広がっています。
この記事をよんでウミウシに興味を持った人は、ぜひ図鑑を開いてウミウシについて学んだり、本物を観察しに行ったりと、その不思議な生態を探ってみてくださいね。
(サカナト編集部)
参考文献
西田和記(2024)、ウミウシの生態観察図鑑、誠文堂新光社