フエダイ科・フエダイ属の魚の多くは種類によって異なる斑紋を持ち、見分けやすいグループといえます。
しかし、体側に黒い点(黒色斑)があるものはお互いによく似ており、見分けにくいことがあります。
今回は、体側に黒い点のあるフエダイ属魚類の見分け方をご紹介します。
フエダイ属の魚たち
フエダイ属はインド~中央太平洋域、東太平洋、大西洋の熱帯域に広く分布する、フエダイ科のなかのひとつのグループです。
多くの種は浅海にすみ、体はふつう体高があり吻がやや尖っているのが特徴です。
基本的に熱帯・亜熱帯の海にすみますが、中には河川に入るものや、温帯性のものも知られています。
いずれの種も食用となり美味なものが多いのですが、中にはバラフエダイやヒメフエダイ、イッテンフエダイなどのようにシガテラ中毒を引き起こすことがある種も含まれており、注意が必要です。
フエダイ属魚類の共通した特徴としては、口が比較的大きく伸長する、前鰓蓋骨は鋸歯状であり、下縁に切れ込みがあること(ごく浅い場合あり)、背鰭基部は鱗に覆われること、鋤骨にV字型や三角形、あるいは三角形で中央部が後方にのび、矢印のような形をしたものなどの歯帯があることなどが挙げられます。
また、フエダイ属と名前が似ているものに、フエフキダイ属というものがいます。
ただしフエフキダイ属はフエフキダイ科に含まれる、つまり「科」の時点で異なっているグループです。フエダイ属とフエフキダイ科のフエフキダイ属は、頭部の鱗の有無で見分けることができます。
黒い点のあるフエダイ属
フエダイ科・フエダイ属の魚は色鮮やかなものや、斑紋が特徴的なものが多く含まれています。今回ご紹介する、体側に黒色斑を有するフエダイ属魚類もそのひとつです。
黒色斑というのは黒い点のことで、これが体側後方の背中よりにあります。
ただし老成魚や、個体によって、あるいはその時の感情や状況によっては薄くなったりすることもありますので、注意が必要です。
体側に黒い点のあるフエダイ科の魚は沖縄では「やまとびー」と呼称されます。この「やまとびー」の意味については、体側の黒色斑をやまと(日本)の日の丸に見立てたという説があります。
また、高知県などではクロホシフエダイのことを「モンツキ」と呼びます。この種は大変美味であり、釣り人や漁業従事者には親しまれている魚です。
日本産フエダイ属魚類各種の解説
ここでは体側に黒い点がある日本産フエダイ属魚類であるクロホシフエダイ、ニセクロホシフエダイ、ミナミフエダイおよびイッテンフエダイの4種を解説します。
このほか、ヨコスジフエダイのように黒い縦帯上に黒色斑が出るような種や、ヨスジフエダイやロクセンフエダイなどのようにたまに体側に薄い黒色斑を出すような種がいますが、これらの種は今回は除外させていただきます。
クロホシフエダイ Lutjanus russellii(Bleeker,1869)
日本においてクロホシフエダイはこの4種のなかでは最も広い範囲に分布するもので、本州太平洋岸ではもちろん、日本海岸でもしばしば採集されています。大阪湾や宮城県などからの記録もあるほどです。
しかしながら温帯性というわけではなく、南は琉球列島、南大東島、小笠原諸島にも見られます。
海外では西太平洋に広く見られ、タイプ産地はジャカルタとなっています。従来はインド洋にも分布しているとされましたが、インド洋産のものはLutjanus indicusという別種とされています。
幼魚は河川汽水域にも見られ、オキフエダイやゴマフエダイ、後述のニセクロホシフエダイなどと一緒に見られることがあります。
幼魚や若魚では体側に暗色~黄色っぽい縦線が入りますがそれらは太く、数が少ないように思います(赤い矢印)。また体側の背部にもあるのも特徴といえそうです。しかしこの縦線は大きい個体では消失してしまいます。
また胸鰭は薄い黄色、腹鰭・臀鰭は明瞭に黄色ですが、背鰭は灰色で尾鰭はえんじ色であり、ニセクロホシフエダイ、ミナミフエダイ、イッテンフエダイとは異なります(青い矢印)。
ニセクロホシフエダイ Lutjanus fulviflamma(Forsskal,1775)
ニセクロホシフエダイはクロホシフエダイによく似ている種です。幼魚はおもに河川の汽水域や、琉球列島ではマングローブ域などで見られます。
神奈川県三浦半島以南の太平洋岸、琉球列島、小笠原諸島に分布し、高知県ではしばしば釣りにより採集されます。
市場に上がるフエダイ科魚類としては比較的小型で、全長は40センチになるとされますが、普通はより小型です。
海外においては紅海・東アフリカからサモアまでのインド~中央太平洋に分布する広域分布種です。タイプ産地は紅海です。
ニセクロホシフエダイはクロホシフエダイに似ていますが、クロホシフエダイとことなり背鰭や尾鰭を含むすべての鰭が黄色いことで、背鰭や尾鰭が黄色くない(灰色からえんじ色)のクロホシフエダイとは容易に見分けられます(赤い矢印)。また同じように各鰭が黄色いイッテンフエダイとは体側に黄色の縦帯が入ることで見分けられます(青い矢印)。
体長6センチ程の幼魚は体側に縦線が入ることからミナミフエダイによく似ていますが、ニセクロホシフエダイの眼前方の吻から鰓蓋にかけて入る黒色線(赤い矢印)はミナミフエダイでは見られません。イッテンフエダイの幼魚との見分け方は成魚と同様、体側に青い縦線が入ることで見分けます(青い矢印)。
ミナミフエダイ Lutjanus ehrenbergii(Peters,1869)
ニセクロホシフエダイによく似ていますが、この種は日本ではまれな種とされています。筆者も八重山諸島産の2匹しか確認していません。
ただし近年になって紀伊半島からも報告されました。分布域は紅海・東アフリカからマリアナ諸島、ソロモン諸島までと、ニセクロホシフエダイよりもやや狭いです。タイプ標本はニセクロホシフエダイ同様に紅海から得られています。
学名は古くはLutjanus johniiとされましたが、のちにミナミフエダイはLutjanus ehrenbergiiと同定され、L.johniiは日本に分布しないとされました。しかし、のちにL.johniiと同定される種についても日本から標本に基き記録され、カドガワフエダイという標準和名がついています。
ミナミフエダイは尾鰭や臀鰭が黄色をおび、体側に細かい黄色の縦線が入るなどニセクロホシフエダイに似たところがあります。しかし吻から鰓蓋にいたる黒い縦帯がないか、あっても鰓蓋付近まで達しない(赤い矢印)ことからニセクロホシフエダイと見分けられます。
また体側の黒色斑は円形で大きいのも特徴とされていますが、ニセクロホシフエダイでも同じように円形の黒色斑がある個体がいるので注意します(青い矢印)。このほか、鰭の色彩もニセクロホシフエダイとは若干違う所があるように思われます。
成長すると背鰭・尾鰭・臀鰭は黄色になりますが、尾鰭後端は直線的なようでこれも見分けの助けになるかもしれません。体側下方には黄色の縦帯が複数入り、イッテンフエダイとは容易に見分けられます(緑の矢印)。
このほか、側線よりも上方の鱗は側線と並行するという特徴をもち、側線より上方の鱗が斜めに入るイッテンフエダイやニセクロホシフエダイと識別することができます。ただし慣れないと見分けは難しいかもしれません。
イッテンフエダイ Lutjanus monostigma(Cuvier, 1828)
イッテンフエダイは日本に分布するこの4種のなかでクロホシフエダイとしばしば混同されています。しかしながらイッテンフエダイはしばしばシガテラ毒を有するといわれており、沖縄では漁獲されても、市場に出ることはないとされます(自家消費される)。
幼魚は死滅回遊魚として、夏から秋にかけて九州太平洋岸~関東地方の、ごく浅い潮だまりでも見ることができます。
海外では紅海・東アフリカからマルケサス(マルキーズ)諸島にまで見られる広域分布種ですが、紅海のものなどは日本近海のものとはやや異なる雰囲気・色彩をしています。タイプ産地はインド洋のセイシェルです。
イッテンフエダイはクロホシフエダイによく似ています。しかしながら、写真ではわかりにくいのですが尾鰭や背鰭も黄色(赤い矢印:クロホシフエダイでは背鰭や尾鰭は灰色からえんじ色)に近いことから、見分けるのは難しくないと思います。
ただし幼魚では背鰭の先端のみが黄色っぽく、わかりにくいケースもあります。
またクロホシフエダイ、ニセクロホシフエダイ、ミナミフエダイの幼魚に見られる黄色の縦線は、イッテンフエダイの幼魚では見られません(青い矢印)。小型個体はこちらの特徴で見分けるのがよいのでしょう。なお体側の黒色斑は大型個体では消失することもよくあります。
なお、このほかにもう一種、ミナミフエダイのところで少し触れたカドガワフエダイという種が日本に分布していますが、この魚については日本からの記録は少なく珍しいもので、今回見分け方を紹介することは残念ながらできませんでした。
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