水中では常に水圧や水の流れの変化があり、環境によっては殆ど視覚が使えないこともあります。
そんな環境で生きる魚たちは、側線と呼ばれるセンサーが発達しています。
<側線>は水の動きから色々なことを知るための感覚器官
魚に備わっている側線とは、魚の第六感ともいわれるほど発達しており、とても繊細かつ敏感な器官で、魚の体の側面にあることから側線と呼ばれています。側線のある鱗は側線鱗と呼ばれ、側線孔という小さな穴がついています。
魚は側線によって、水の流れや水圧、水の小さな振動や音を感じることができます。これにより泳ぐ方向を調節したり、天敵や障害物を察知して逃げたり、獲物を見つけたりと、魚の生活に非常に大きく関わっています。魚だけでなく、両生類や頭足類も類似した器官を有しています。
私たち人間や動物の内耳にある有毛細胞は、側線と同一の起源をもつと考えられています。実際、側線の奥にある側線管と呼ばれる管にも有毛細胞があり、そこで水の振動や動きを感じ取っています。
魚がぶつからないのは側線のおかげ!
群れをつくる魚同士がぶつからないことや、水槽の魚がガラスにぶつからない理由を疑問に思ったことはありませんか? これらは側線のおかげだと考えられています。
側線は私たちにとっての視覚、聴覚のように、意識せずとも常にはたらいているため、急な方向転換や障害物にも対応できます。また、濁った水や暗い深海でも自分の身の危険を察知することが可能なため、魚にとってはとても大切な器官です。
特殊な側線を持つ魚たち
通常、魚は左右に1本ずつ、1対の側線を持っています。しかし、環境に適応するために特殊な側線をもつ魚たちもいます。
メダカは、体の側面ではなく、脳に近い頭部に側線を持っています。これによって、水上からの天敵の接近をより早く察知できます。
アイナメは5本の側線を持つことで有名です。見た目が似ているクジメとの判別方法は側線の数。クジメの側線は1対ですが、アイナメは左右に2対、背中に1本の合計5本の側線を持っています。しかし最近の研究では、アイナメが持つ5本の側線のうち4本は、奥に感覚器官のない飾りであるといわれています。
暗い深海にすむ深海魚や、砂の底に潜んで獲物を待つ魚たちは、目が見えないぶん側線が発達していることが多いです。特に深海魚のクジラウオは側線が発達していることで有名です。大きな側線孔をもち、獲物を敏感に察知します。
人工的な環境では側線の数が減少する?
2022年、13世代以上継代飼育されたサケ科サクラマスの側線の受容器が、野生のサクラマスよりも10%減少していることが発見されました(サクラマスの感覚が短期間で鈍る可能性~魚類の飼育方法に一石を投じるデータ~-国立科学博物館)。継代飼育魚の自然環境での生存率の低さは、側線の受容器数が少ないことが影響している可能性も指摘されています。
しかし、野生にすむ魚の地域個体群での差異や、自然環境下での成長や生育に実際に不利になっているのか、サクラマス以外の魚種ではどのような変化があるのかなど、不明点はまだ残っています。そして、側線という器官自体も未だわかっていない部分が多く、今後の研究が期待されます。
側線は人間にはない感覚を察知できる不思議な器官です。水中で優雅に泳ぐ魚の感覚を想像しながら鑑賞するのも楽しいかもしれませんね。
(サカナト編集部)