富山県水産研究所は12月10日、高級魚であるアカムツの親魚から得た受精卵が孵化し、稚魚まで育成することに成功したと発表しました。アカムツはホタルジャコ科に分類される深海性の魚で、味がよく脂の乗りがよいことから高値で取り引きされています。
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「のどぐろ」の呼び名で有名な<アカムツ>
アカムツはスズキ目ホタルジャコ科に分類される深海魚です。ホタルジャコ科の中では大型になる種であり、最大で50センチにもなります。
本種は日本や朝鮮半島、フィリピンに生息し、国内では北海道から九州にかけての広い範囲に分布。主に水深80メートル以深の大陸棚に見られ、底引き網や延縄、深場の釣りで漁獲されます。
アカムツは「全身トロ」
アカムツは“全身トロ”と言われるほど味が良いため、食用としての需要が高く、時期によってはキロあたり1万円になることもあります。
元々知る人ぞ知る美味しい魚でしたが、テニスの錦織圭選手が帰国後に食べたいものとして「のどぐろ」を挙げたことから、本種の名は全国へと知れ渡りました。
なお、「のどぐろ」とはアカムツの別名で、本種の喉が黒いことに由来します。
アカムツの人工孵化
高値で取引される高級魚アカムツですが、漁獲量は少なく、産地の一つである富山県でも年間10~20トンほどです。
そこで、富山県水産研究所では2011年より栽培漁業技術の研究に着手。2013年には初めて稚魚の育成に成功し、2016年には数万匹の稚魚を富山湾に放流しています。
当時、受精卵は天然個体からの人工授精により採取されたものを使用していたものの、上質な受精卵を得られる確率が低いことが課題となっていました。
また、親魚の養成に取り組むも、半年~1年飼育すると眼球が突出してしまうなどの理由から数年にわたる飼育が難しく、受精卵を得るには至っていませんでした。
水槽内でアカムツ稚魚の育成に成功
長期飼育が難しいとされていたアカムツですが、富山県水産研究所では2020年~2023年にかけて富山湾で採集したアカムツの親魚69匹を水槽内で飼育し、産卵に適した水温・明るさ・餌の検証を行ってきました。
そして今年8月、約58万個の受精卵を得ることに成功し、そのうちの3分の2にあたる約39万個の受精卵が孵化。また、約5000匹を全長5センチまで育成しており、来年の1月以降に1000~2000匹を富山湾に放流する予定とのことです。
人工的に育った稚魚はほとんどオス?
アカムツは育成が難しいことに加え、生態に不明な点が多いことも特徴です。
人工的に育成したアカムツ稚魚の98パーセントがオスになってしまうという性別の偏りが生じることが知られており、これが大きな課題となっていました。
富山県水産研究所では他魚種の雌化技術を参考に研究をすすめ、大豆イソフラボンに着目。放流サイズ(5センチ)に育つまで、粉末の大豆イソフラボンを餌と一緒に与えた結果、1割の稚魚がメスに成長しました。
栽培漁業の事業化へ
アカムツの栽培漁業について、従来の人工授精から受精卵を得る方法では、上質な受精卵を得られる確率が低いことが課題となっていました。
そのような中、水槽内でアカムツを長期飼育し、世界初となる産卵・孵化〜稚魚の育成に成功しました。これにより、かつて事業規模の安定的な種苗生産は難しいとされていた栽培漁業の事業化は大きく前進したといいます。
魚の漁獲量が減少している今、栽培漁業がますます重要になっていくかもしれませんね。
※2024年12月12日時点の情報です
(サカナト編集部)