投げ釣りのターゲットといえばキスやカレイなどですが、時には目的外の魚も釣れてしまいます。ネズミゴチは釣り人の間でよくメゴチと呼ばれますが、この魚は投げ釣りにおいて外道の定番であり、あまり歓迎されません。
そんなネズミゴチ(メゴチ)ですが、実は美味しい魚ということを知っていますか?
メゴチ(ネズミゴチ)はコチ科ではない
メゴチはネズッポ科に属する魚を総称した地方名であり、主に関東圏でこの呼び名が使用されています。外道のイメージが強い魚ですが、江戸前天ぷらではシロギス、マハゼ、ギンポと並ぶ定番の魚です。
釣り人の間でもメゴチの通りがよく、ネズッポという呼び名を知らない人も少なくはありません。そのため、ネズッポ科の魚をコチ科の魚と勘違いしている人も多く、しばしばコチ科とネズッポ科の間で混同が見られます。コチ科に標準和名で「メゴチ」という魚がいることも、混乱を招く原因の一つかもしれませんね。
しかし、コチ科とネズッポ科の見分け方は非常に簡単です。
最も分かりやすい違いは口の形状でしょう。獲物を積極的に捕食するコチ科は口が大きく発達しますが、砂底をついばむように索餌(さくじ)するネズッポ科はおちょぼ口をしています。実際、食性の違いを表すかのようにコチ科はルアーや泳がせ釣りで見られるのに対して、ネズッポ科は多毛類を使った釣りで見かけることが多いです。
他にもコチ科は鱗が発達しているのに対して、ネズッポ科では体表が滑らかであることから区別することができます。覚えれば簡単に見分けられるので、見かけた際に観察してみてください。
ネズッポは多様性が高い
ところで、日本のネズッポ科は何種類いるのか知っていますか。
国内で見られるネズッポ科は意外と多く、2024年1月現在で38種が知られています。生息環境の多様性が高く、水深200メートルを超える深海から波打ち際まで幅広く分布しています。
生息環境もさることながら色彩の多様性も高く、サンゴ礁に生息するニシキテグリやコウワンテグリ、深海性のベニテグリはネズッポ科の中でも鮮やかな種です。特にニシキテグリは派手な色彩から鑑賞魚として人気がありますね。
ネズッポ科は名前に「○○テグリ」と付く魚が多いですが、これは手繰網(てぐりあみ)で多獲される魚であることが由来と言われています。また、ネズッポ科の体表がぬるぬるしていることに由来するのか、「○○ヌメリ」と付く種も多く見られます。
大阪名物のがっちょ
大阪湾は昔から底引き網漁が盛んで、底魚をはじめとする多くの魚介類が漁獲されています。ネズッポ科も大阪湾でよく見られる底魚の一つで、複数種のネズッポ科が生息しています。
大阪ではネズッポ科をまとめて「がっちょ」と呼び、主にネズミゴチとハタタテヌメリの2種が底引き網で漁獲されています。2種とも食用になり、大阪府泉州では松葉造りの「がっちょ」を唐揚げにした「がっちょの唐揚げ」が郷土料理として知らています。手軽に食べられるレトルト食品も開発され、大阪府和泉市のふるさと納税の返礼品としても扱われているようです。
ちなみに「がっちょ」という名前は、餌をがっつく様子から名付けられたそうです。
キス釣りの外道として知られるネズッポ科ですが、江戸前天ぷらの高級食材や大阪のソウルフードでもあります。外道だからと言って無下にせず、食べてみるのも良いかもしれません。
(サカナト編集部)