沖縄に行ったことがある人は、「イラブチャー」と呼ばれる魚の名前を市場などで見かけたことがあるかもしれません。
イラブチャーとは、沖縄の市場に並べられる魚の中でも一際目を引くナンヨウブダイという魚のこと。
真っ青な体で一見して食用には向かないように感じますが、沖縄では高級魚として扱われる魚なのです。
沖縄では高級魚として愛されるイラブチャー
「イラブチャー」は沖縄ではよく使われる呼び名で、スーパーなどでも見かけることができます。
実をいうと、この名前は特定の魚を指すものではなく、正確にはブダイの仲間全般を指して使われているのです。

イラブチャーの由来に関しては正確な出典が無く分かりませんが、ウミヘビのような鋭い歯と顎を持っているため、沖縄でウミヘビを表す「イラブー」という単語が入っているのかもしれません。
沖縄で多く食べられているブダイの仲間はヒブダイとナンヨウブダイの2種類。ナンヨウブダイの場合はゲンナー(ゲンノー)という固有名詞があるため、沖縄の方言では「ゲンノーイラブチャー」と呼ばれます。
ナンヨウブダイは高級魚として知られており、白身魚の上品な旨みが特徴。刺身や天ぷら、バター焼きなど種類豊富な楽しみ方ができ、鮮やかな体色からは想像がつかないほど美味しい魚です。
ナンヨウブダイの生態
ナンヨウブダイは高知県から琉球列島まで広い範囲で見られ、サンゴ礁や岩礁などで暮らしています。幼魚と成魚の見た目が違う魚の一種で、幼魚のころは黒い体に白いラインが入っている可愛らしい姿をしています。
成長するにつれ、ブダイ科の魚らしいがっしりした体と鮮やかな青色になり、主に岩やサンゴに付着した藻を食べて、70センチほどの大きさになります。

ナンヨウブダイは自前の寝袋を用意して眠るという面白い生態を持ちます。
岩の間などに身を隠したあと、口やエラからゼリー上の粘膜を吐き出し、自分の体を覆ってしまうのです。この寝袋は眠っている間に寄生虫を避けるため、もしくは自分の匂いを外に漏らして外敵に襲われないようにするためなどの理由が考えられています。
なお、ナンヨウブダイ以外にもブダイの仲間のいくつかは、寝袋を作って眠る習性があります。
ナンヨウブダイを食べるときの注意点
ナンヨウブダイは市場に並んでることが多いですが、自力で釣ることもできる魚です。高級魚なので釣れると嬉しいものですが、類似している種であるアオブダイに注意が必要です。
アオブダイはブダイの仲間ではありますが、こちらはパリトキシンと呼ばれる毒をもつ魚。餌として食べているスナギンチャクに含まれている毒を内臓へ蓄積します。
食べてしまうと数時間~数十時間の間に歩行困難や呼吸困難などを引き起こし、重篤な場合は死に至る危険性もあります(見慣れない魚にご用心!~有毒魚貝類による食中毒~−東京都健康安全研究センター)。

ナンヨウブダイは頭にこぶがある、尾ヒレの端が長いなどの見分け方がありますが、素人が同定して食べるには危険が多い魚です。食中毒のリスクを回避するためにも、内臓を取り除いて食べるか、青いブダイが釣れたらリリースをするのがよいでしょう。
沖縄で愛されているナンヨウブダイは、熱帯魚らしい見た目に反して上品で食べやすい白身魚です。釣りでも出会うことができますが、類似種のアオブダイには毒があるので注意が必要です。
市場で青く大きな魚を見かけたら、ぜひ食べてみてくださいね。
(サカナトライター:秋津)