サカナをもっと好きになる

キーワードから探す

知る

川魚の代表<アユ>はなぜ川を遡上するのか? アユの生活史と遡上の秘密を紐解いてみる

毎年この時期、五島列島にある清流「中須川」では、激しく打ち付ける激流の中をアユの群れが飛び跳ねながら川を登る様子を観察することができます。

その光景は圧巻で、数多くの人がアユの遡上(川を登ること)を見届け、無事に上流に辿り着くことを願っています。

アユの平均寿命は1年と短い中、なぜリスクを冒して遡上を行うのでしょうか?

【画像】アユを生で食べる?<アユのせごし>

アユの短い一生

9~12月、卵から孵ったアユの稚魚はすぐに海を目指して泳ぎ始めます。海で過ごす仔魚たちは、寒い冬の間はプランクトンを食べ成長しながら、遡上の日をじーっと待ちます。

春になり体長7~10センチ程まで成長したアユは、河川の水温が10℃を上回ると海から川を目指して遡上をスタートします。

川をのぼるアユ(提供:PhotoAC)

ですが、小さなアユにとって、遡上はまさに命懸けです。

遡上をすることで有名なサケはアユよりも大きな体を持っているものの、上流まで辿り着ける確率はほんの数パーセントほどと言われています。

アユにとっても同じく危険な旅になることが安易に想像できるかと思います。

激流を乗り越えると……肉食から草食へ

激流を乗り越え上流についたアユは、川底の藻を食べて20センチ程まで成長します。

稚魚の頃は動物性プランクトンを食べ、大人になると藻を食べる──肉食から草食へと食生が変わるのもアユの面白い生態ですね。

アユ(提供:PhotoAC)

そして秋になると、立派に育ったアユは産卵をするため、海への降下行動を開始します。

アユは遠くまで回遊する魚ではないので、ほとんどが自分が生まれ育った海に戻ってくるようです。

無事に海まで辿り着いたアユ達は多くて20万個程の卵を産み落とし、その短い人生に幕を下ろします。

アユの遡上行動には生息密度が関係している

アユの寿命は1年とかなり短命。それなのになぜ遡上を行うのでしょうか?

その理由は正確に解明されていませんが、危険な上流へ移動することでエサ場の競合を避け、良好な成長を行うためと考えられています。

ここで一つ、面白い研究結果を紹介します。

たかはし河川生物調査事務所が北海道南部の渡島半島で天然アユの遡上行動を調べた際、川の生息密度が高くなると遡上行動が活発化するということがわかりました。

これは、川全体の生息密度が大きいとそれを嫌がるように広範囲に分布する=上流に分散するようになる、ということが言えます。

アユ(提供:PhotoAC)

また、上流に生息しているアユの個体は、中流~下流の個体に比べ肥満度や成長度が大きい個体で占められていたといいます。ふ化日を調べてみると、他のアユより早く生まれて、かつ成長率の良い個体が多いことが認められました。

アユは全てが上流に向かうという訳ではなく、個別に判断している可能性があると研究で明らかになりました。高密度を嫌がる個体もいますが、一方で気にせず下流の方に居続ける個体もいるそうです。

アユは縄張りを持つ魚?

ちなみに、いつも集団で仲良く過ごすイメージがあるアユですが、実は2種類に分かれるそうです。

ひとつは集団で仲良くエサを分け合うもの、もうひとつは縄張りを作りエサを独り占めするもの。

縄張りを作るアユはかなり攻撃性が高く、自分の縄張りより2~3メートルも離れた場所にいるアユでも、追いかけ回し攻撃を加えるのだそうです。

「アユの友釣り」はこの習性を使った釣法で、おとりのアユを釣り人が操り、攻撃してきたアユを貼りにひっかけます。

アユ釣りの風景(提供:PhotoAC)

縄張りを作る草食系魚類はとても稀。確かにアユが一生に食べることのできる藻はそれほど多くないため、縄張りを作り、エサを独り占めする必要性はあまりないように思います。

上流を命懸けで目指し最高の生活を掴み取ろうと頑張るアユと、下流で質素ながらも平和な生活を好むアユ。

なんだか人間らしさを感じたのは私だけでしょうか。

(サカナトライター:ティガ)

参考文献

高橋勇夫、東健作(2006)、ここまでわかったアユの本 変化する川と鮎、天然アユはどこにいる?、築地書館

アユ学概論-たかはし河川生物調査事務所

天然アユの遡上範囲(分布)はどのようにして決まるのか?-たかはし河川生物調査事務所

東京鮎毛バリ釣り研究会-謎に満ちた鮎の生態

 

  • この記事の執筆者
  • 執筆者の新着記事
ティガ

ティガ

「五島のいきものたちの暮らし、そっと覗いてみませんか?」

こんにちは! 生まれも育ちも長崎県五島列島(離島)のティガと申します! 小さい頃から五島の大自然の中、様々な生き物に触れてきました。 五島は生き物の宝庫……! 五島に生息している面白くて魅力的な生き物達を中心にご紹介していきます。

  1. 川魚の代表<アユ>はなぜ川を遡上するのか? アユの生活史と遡上の秘密を紐解いてみる

  2. 磯焼け&未利用魚の問題<五島列島の取り組み> 海の平和を取り戻すための施策とは?

  3. 祖母直伝!絶品<キビナゴ>の美味しい食べ方3選 九州一の漁獲高・五島列島流の料理とは?

RANKING

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

関連記事

PAGE TOP