暖かい海に住む魚たちが何かの拍子で流れてきて、本来の分布域ではない海で確認されることがあります。この魚たちを死滅回遊魚、もしくは季節遊来魚と呼びます。これらの魚たちはどのように分布域以外の海にやってくるのでしょうか?
この記事では死滅回遊魚とは何か、魚たちが流れてくる理由を解説します。また併せて、死滅回遊魚として代表の魚も紹介します。
名前だけではわかりづらい死滅回遊魚の正体
死滅回遊魚とは、本来は回遊することなく暖かい地域に定住している魚たちが、何らかの理由で日本近海など、本来なら生息するはずのない海域に流されてしまう魚のことです。
なぜ死滅回遊魚と呼ばれるの?新しい呼び方も紹介
流されてきた魚は、本来暖かい地域に住んでいるので夏場は生存することができます。しかし、冬がやってくると水温の低下に耐えることができません。また本来回遊しない魚なので長い距離を泳ぐ力もなく、もとの生息域に戻ることもできず、ほとんどが死んでしまいます。このことから、回遊してきて死滅してしまう魚、死滅回遊魚と呼ばれるのです。
また、「死滅」という言葉のイメージが悪いこと、一般的な回遊が指す意味とは違うことに加え、近年の水温上昇の影響で死なずに冬を越えて生存する魚たちも増えたことから季節来遊魚と呼ばれることも増えてきました。しかしこの表現はまだ少数派。この記事では、死滅回遊魚という言葉に統一をして解説していきます。
彼らが「回遊」する理由とは?
回遊する理由はいくつか考えられますが、代表的なものとして潮流(主に黒潮)と台風の影響が挙げられます。黒潮は日本海流とも呼ばれている大きな暖流で、フィリピンなどがある南の海から東シナ海を抜け、本州を沿うように房総半島沖まで流れています。
チョウチョウウオなど南方の魚は、浮性卵と呼ばれる水に浮く卵を産みます。この卵や、泳ぐ力が小さい幼魚たちがこの黒潮に乗ってやってくるのです。
日本海側の死滅回遊魚たちは対馬海流に乗って北上しているそう。また潮流だけでなく、台風や大型低気圧の波風による海のうねりで流されてくることもあります。
種にとって悪いことだけじゃない!
死滅回遊は種にとって悪いことだけではありません。先述の通り、南方からきた魚たちが温暖化による水温上昇の影響で越冬することも増えてきました。それだけでなく産卵するケースもみられています(伊豆で越冬死滅回遊魚が産卵-朝日新聞)。
このように複数の魚たちが越冬し産卵することで、種の数を増やすことができます。すると、流れ着いた場所を生息域として新たな個体群が定着します。このことは、種の存続にとって重要な役割を担います。
代表的な死滅回遊魚3選
日本近海で見られる代表的な死滅回遊魚を紹介します。死滅回遊をする魚は暖かい海にすむ、一般に熱帯魚と呼ばれ親しまれている魚たちが多いです。
スズメダイ
スズキ目スズメダイ科に分類される小さな魚、スズメダイの仲間たち。死滅回遊魚として最もよく知られているのがこの魚たちではないでしょうか。インド洋や朝鮮半島、沖縄、西太平洋など、温帯・熱帯域のサンゴ礁に広く分布しています。スズメダイの仲間のうち、ソラスズメダイが最もよくみられるそうです。鮮やかな青色の体色が綺麗な魚です。
チョウチョウウオ
スズキ目チョウチョウウオ科に分類されるチョウチョウウオの仲間たちは、鮮やかで目立つ体色は水族館やアクアリウムでの観賞魚としてもお馴染みの魚です。この魚もスズメダイたちと同じく代表的な死滅回遊魚で、関東近海をはじめとした本州の海に流れ着きます。
ハリセンボン
フグ目ハリセンボン科ハリセンボン属、体の棘が特徴的なハリセンボンも死滅回遊魚。全世界の暖かい水域に広く分布しています。この魚も冬の水温低下には耐えられず死んでしまう代表種です。
2023年には北海道でハリセンボン科の仲間が採集されました(北海道函館市臼尻で採集されたハリセンボン科魚類 2 種の北限記録-北海道函館市臼尻で採集されたハリセンボン科魚類 2 種の北限記録)。これは北海道における初めての記録且つ、ハリセンボン科の分布の北限記録です。暖流である対馬海流に乗って北上したと考えられています。
死滅回遊魚、あるいは季節来遊魚は、水族館に近い地域で漁獲され展示されていることもあります。また、伊豆半島や小笠原諸島などであればダイビングで観察できることも。
南の海からやってきた小さな魚たちを見ると、その可愛さと同時に生物が種を存続させる力を感じることができるかもしれませんね。
(サカナト編集部)