小さい頃に読んだ絵本を大人になってもう一度読み返すと、その深い内容に感心することが度々あります。
中でも私が感銘を受けたのが、『だるまちゃんとてんぐちゃん』などの絵本で知られる、かこさとし作『クラゲのふしぎびっくりばなし』(小峰書店)という作品です。
絵本なのに専門用語を使用&分かりやすい解説付き
『クラゲのふしぎびっくりばなし』は絵本でありながらも、クラゲの種類や生活史、そのほかの刺胞動物について書かれており、情報量がとても多いです。対象年齢は小学校低学年ほどですが、そうとは思えないほどのマニアックな内容に驚きました。
本来、子どもに生きものの生態や体の細かい部位などを伝えるとき、なるべく専門用語を使わずに動詞や代名詞を使うのが一般的です。しかし、本書では惜しみなく専門用語を使っています。
例えば、クラゲのあかちゃんは幼生期といって成体とは異なる特徴をもつ形態がありますが、その特徴にちなんだラテン語の幼生期の名称で呼ばれています。例えば、カニであればゾエア、ウニであればプリズムというような名前です。

本来そのような専門用語は幼児向けの本には使わずに、「クラゲの赤ちゃん」などと表記するところ、本書ではクラゲが変態していく様子について、プラヌラ、ポリプ、エフィラと紹介しています。
それぞれの生活史を人間の成長に当てはめて、プラヌラは幼稚園、ポリプが小・中学校、エフィラ期が大学生と例えることで、専門用語を使ってもなお、子どもに分かりやすく説明されているのです。
絵本とは思えないほどの情報量
それ以外にも、本書は図鑑としても描かれており、筆者の手書きのイラストで多くの種類のクラゲが載っています。
ミズクラゲなどの代表的な種類だけでなく、オベリアクラゲやウミヒバなどマイナーで、一般的な図鑑にはあまり載っていないような種類のほか、イソギンチャクの仲間と生活様式、サンゴの大まかな分類とサンゴ礁ができるいきさつなど他の刺胞動物のことまで細かく載っています。
実際に数えてみると、掲載種は107種類にも及びました。
さらには、各クラゲとサンゴ類の体の構造、刺胞の種類と発射の原理などもすべてイラストで再現されており、その細かさと正確さには狂気すら感じます。
絵本作家ならではの文章も魅力
最後の締めの文章もとても粋なものになっており、筆者の文才がうかがえます。
「難しい言葉がどんどん出てきましたね。こうした、おどろきびっくりのひとつかふたつをおかあさんやおとうさんに、おしえてあげてください。きっとおどろいてめをまるくすることでしょう。そうなったらあなたは、ニンギョウヒドラのポリプちゃんのように両手をひろげてとびあがってよろこんでください」
子どもにはかなり難解に感じる内容の本でも、ここまで親しみやすく書かれているものはそうそう見たことがありません。
幼少期に読んだ時は「クラゲがいっぱい書かれてて楽しいな」程度には思っていましたが、まさかここまで完成度の高い絵本であったとは……とより一層感じました。
<かこさとし大自然のふしぎ絵本シリーズ>は、本書以外にも様々なテーマのものがあります。興味があればぜひ手に取ってみることをおすすめします。
(サカナトライター:俊甫犬)