「ピラニア」と聞いて、多くの人は「狂暴で危険なアマゾンの人食い魚」といったイメージを持つのではないでしょうか?
私は、こう思います。
「美しい……」
ルビーのように鮮やかな紅のお腹、貴金属のように煌めく鱗。自分が何者であるかを隠しもしない鋭い歯の、機能美にも似た潔さ。
ここまでくると、恐ろしげな風貌すらワイルドな魅力に思えてきます。
もともとは「庶民の魚」
私とピラニアの出会いは、ブラジルのマナウスを旅した時でした。到着してすぐに入った食堂で、いきなり「ピラニアの唐揚げ」が出てきたのです。よく知られているように、ピラニアは現地でよく食べられています。
日本人が「今日はアジにするかサケにするか」と考えるのと同じようにメジャーな食材。白身で美味な魚です。
意外にもピラニアは、観賞魚として親しまれるネオンテトラやカージナルテトラといった魚に近いカラシン目。なるほど、あの怪しい美しさには、そんな秘密があったのか。
ピラニアとは複数の種の総称で、よく知られているお腹が赤い姿はピラニア・ナッテリーという種です。
あの顔にして、実は臆病?

ピラニアの性格は、獰猛なイメージに反して、実は臆病です。
ピラニアには、ワニや水鳥、ほかの肉食魚といった天敵がたくさんいます。身を守るため群れで行動し、安全な場所からあまり動きません。
物陰でじっとしている彼らを思うと、いじらしく見えてきませんか?
どうして人食い魚のイメージに?
ピラニアは基本的には虫や魚、死骸を食べ、生きた動物を食べることはめったにありません。
人が噛まれる事故は起きていますが、ピラニアが人を食べる目的で襲ったケースは極めてまれです。
現地ではピラニアといえば、まず第1に「おいしい魚」であり、第2に「釣りの対象魚」。一方、観光客が喜ぶので、現地でも意図的に“ホラー感”を強調することはよくあります。

本来はのどかに暮らすピラニアが恐ろしい魚として世界に知られたのは、元アメリカ大統領のセオドア・ルーズベルトが1914年に発表したアマゾン探検の手記がきっかけと言われています。
彼が目撃したのは、川に入った牛がピラニアに食べられて、あっという間に骨になる光景。これはたしかに、強烈なインパクトを世界に与えそうです。
実は地元民たちが川の一部にピラニアを密集させて飢餓状態にし、そこに牛を追い込んだのです。有名人に地元をアピールするためのショーでした。
それから100年以上、世界はこのフェイクニュースとも言えそうなイメージに踊らされ続けているわけです。
美しい魚・ピラニア
ピラニアは各地の水族館で会えますが、最近は観賞魚として個人飼育も人気になっています。彼らの魅力が理解されつつあるようで、嬉しい限りです。
ぜひピラニアの推しポイントを見つけてみてください。
(サカナトライター:浅川 千)