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伊豆諸島で<鳥類>の多様性が50年の間に低下していることが判明 捕食者の影響は島を越える?

大陸と地続きになったことがない海洋島では、独自の生態系が形成されています。

海洋島は生物多様性を保全する上で極めて重要な場所とされていますが、島の生態系は外来種の侵入や環境変化に対して非常に脆弱です。加えて、島の生物群集に着目した多くの実証研究は、人間活動が生物群集の変化させていることを示してきました。

一方、島の生物群集は、本土から海を越えて分散する自然の移入でも変化することが知られています。しかし、人間活動と本土からの移入の影響を統合した海洋島における生物群集の変化を捉えた実証研究は、これまでありませんでした。

そこで筑波大学などからなる研究グループは、伊豆諸島を対象に過去と近年の鳥類群集を文献調査と現地調査を実施。本土からの移入と人間活動が鳥類群集へどのような変化を与えるか解明すべく、研究が行われました。

この研究成果は『Journal of Animal Ecology』に掲載されています(Ongoing collapse of avifauna in temperate oceanic islands close to the mainland in theAnthropocene.)。

独自の生態系を保有する海洋島

海洋島は、過去に一度も陸と地続きになったことがない島のことです。

青ヶ島(提供:PhotoAC)

海洋島では独自の生態系が形成されており、その島や周辺の島々でしか見られない固有種も少なくありません。このような海洋島の生態系は生物多様性を保全する上で極めて重要とされますが、外来種の移入や環境変化に対して非常に脆弱であることも知られています。

島の生物群集を変化させる要因

近年は人間活動により海洋島を含む島の生物群集が変化しており、特に人為的な捕食者の導入と環境の改変が深刻な影響を与えていることが多くの実証研究で示されてきました。また、人間活動だけではなく、本土から海を越えて生物が移入される自然による現象も島の生物群集を変化させます。

ところが、これまでの研究では人為的な影響にのみ焦点を当てており、本土からの移入について十分に検討されていませんでした。

八丈島小島(提供:PhotoAC)

そこで、筑波大学、国立環境研究所、千葉大学、静岡大学、東邦大学からなる研究グループは、伊豆諸島の10島(大島、利島、新島、式根島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島、八丈小島、青ヶ島)を対象に過去と近年の鳥類群集を文献調査と現地調査を実施。1970~1973年のデータと2016~2021年のデータを比較して分析が行われました。

各鳥種類の分布の変化を検証 群衆構造の評価

研究では、まず各鳥種類の分布の変化が、種の生態的特性や本土での分布動態とどのように関連しているか統計モデルにより検証。次に、島ごとの鳥類群集について種数、くちばしの形状や食べる餌など種間の生態的な機能の違い、進化的な系統関係から、その群衆構造の評価が行われました。

この際、群集を構成する種間の機能、系統がランダムに構築された群集と比較して似通っているかどうかを調査し、環境フィルタリングや競合排除の影響もこの研究で検証されています。

さらに、島のイタチの導入の有無や農地の面積の増加など、人為的な環境改変が群集構造の変化に与える影響も検証されました。

近隣の島にも生物群集の劣化が影響

検証の結果では、シジュウカラやハクセキレイなど、一腹卵数(1回の営巣で巣内に産む卵の数)が多い種や本土で分布を拡大させた種が、伊豆諸島においても分布を拡大していることが判明します。

しかし、ほぼ全島で鳥類の種数が減少しており、鳥類群集の多様性が低下していることが明らかに。さらに、猛禽類が多くの島から消失していたようです。

シジュウカラ(提供:PhotoAC)

一方、これらの生物群集の変化は、環境の改変やイタチの導入との関係は見出されていません。先行研究では人為的に導入されたイタチが島に生息する動物の個体数を大きく減少させ、生態系に悪影響を与えることが示されてきました。

ニホンイタチ(提供:PhotoAC)

それにもかかわらず、島ごとの解析では鳥類群集の変化に対するイタチの導入の影響が関係が見出されなかった背景として、イタチによる鳥類群集の劣化は導入された島だけではなく、複数の島を移動する鳥類の減少を通して近隣の島に影響を及ぼした結果、島しょ全域で鳥類群集の劣化を引き起こした可能性が考えられています。

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サカナト編集部

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