私はクラゲがとても好きです。奇妙な生態と、美しい姿、種類の豊富さに惹かれています。
今回は、クラゲの中でも珍しい、若返り能力を持つ<ベニクラゲ>に迫ります。
誰しもいちどは、老いたくないと感じるのではないでしょうか。もしかしたら、ベニクラゲの若返り能力が、人間に活用される日が来るかもしれません。
ベニクラゲの生態
ベニクラゲの名前は、傘の中心部が紅色なことに由来しています。
体長は、大きいもので1センチ程度。短い触手には毒がありますが、人間には効きません。

ベニクラゲは、世界中の温暖な浅い海に生息しています。特殊な能力を持ちながらも、比較的見つけやすいというのは意外ではありませんか?
大人のクラゲとして海中に姿を現すのは、主に6月から9月頃。世界中のベニクラゲの仲間たちは、体の特徴が異なる種もありますが、どの種も若返り能力を持っていることが大きな特徴です。
ベニクラゲの若返り能力
ベニクラゲは、環境の変化によるストレスや、物理的なダメージを受けると、段々と退化していきます。
傘の部分がひっくり返り、中にある紅色の部分が剥き出しになることも。退化が進み、器官や組織が崩れると、肉団子のような姿になります。
ベニクラゲ以外のクラゲは通常、その後すべて海中に溶けてなくなります。しかし、ベニクラゲの場合は、肉団子状になった後、水底でポリプという幼少期に戻るのです。
水温が暖かい時期であれば、退化し始めてから2、3日でポリプになり、また大人のクラゲへと成長していきます。
すべてのベニクラゲは不老不死?
ベニクラゲは、すべての個体が若返りを繰り返し、不老不死というわけではありません。若返るには、特定の条件が必要なのではと考えられています。

若返りを果たしたポリプはとても弱く、大人のクラゲへと成長するには整った環境が必要になります。
海洋生物学者の久保田信さんが実験室で飼育した際は、同一の個体で10回以上の若返りをしたそうです。その際には、気の遠くなるような環境整備と、繊細な餌やりが必要だったそう。
そんな条件が、海中で自然と整うなんて奇跡のように思えませんか?
はるか昔から種の進化を促してきた海の偉大さを感じます。
ベニクラゲによって人間が若返る日は来る?
ベニクラゲがなぜ若返るのかは、明確にわかっていません。
しかし、人間のゲノム(遺伝情報)は100%解読されているのに対して、ベニクラゲのゲノムは70%ほどしかわかっていないそう。残り30%の中に、人間の持っていない機能が隠されているかもしれません。
とはいえ、クラゲの生態をどうやって人間に応用するのか、想像がつきにくいと思います。しかし、青カビから、人間に応用できるペニシリンという薬が作られたように、世界はまだまだ可能性が秘められていると思うのです。
そんな希望を抱きながら、世界を眺めてみるのはいかがでしょうか。
(サカナトライター:Miyuki)
参考文献
『不老不死のクラゲの秘密』(著:久保田信/発行:毎日新聞出版)