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水産業が作る景観を未来へ 日本農業遺産の意義と認定された水産地域3選

日本農業遺産とは、日本において重要な伝統的農林水産業を営む地域のことで、農林水産大臣により認定されます。水産業にスポットをあてた日本農業遺産も多数認定されています。

この記事では、日本農業遺産を紹介するとともに、日本農業遺産に認定された水産地域を紹介します。

日本農業遺産とは

日本農業遺産とは、国連食糧農業機関によって定められた世界農業遺産に対し、その国内版として農林水産省が定めた制度です。

社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、それに密接にかかわって育まれた文化、ランドスケープ及びシースケープ、農業生物多様性などが相互に関連して一体となった、我が国において重要な伝統的農林水産業を営む地域(農林水産業システム)(日本農業遺産-農林水産省)と定義づけられています。

つまり、伝統的でありながら地域に合わせた独自性をもつ農林水産業と、それに合わせるように育まれてきた地域の文化や景観、生物の多様性などを重視して認定されるものです。申請地域は、世界農業遺産の5つの認定基準に加えて日本が独自に定めた3つの基準を加えた8つの認定基準、及び申請地域の保全計画に基づいて評価されます。認定基準は以下の通りです。

1.食料及び生計の保証
地域コミュニティの食料及び生計の保障に貢献するものであること。
2.農業生物多様性
食料及び農林水産業にとって世界(我が国)において重要な生物多様性及び遺伝資源が豊富であること。
3.地域の伝統的な知識システム
「地域の貴重で伝統的な知識及び慣習」、「独創的な適応技術」及び「生物相、土地、水等の農林水産業を支える自然資源の管理システム」を維持していること。
4.文化、価値観及び社会組織
地域を特徴付ける文化的アイデンティティや土地のユニークさが認められ、資源管理や食料生産に関連した社会組織、価値観及び文化的慣習が存在すること。
5.ランドスケープ及びシースケープの特徴
長年にわたる人間と自然との相互作用によって発達するとともに、安定化し、緩やかに進化してきたランドスケープやシースケープを有すること。

以下は日本独自に定めた基準です。

6.変化に対するレジリエンス
自然災害や生態系の変化に対応して、農林水産業システムを保全し、次の世代に確実に継承していくために、自然災害等の環境の変化に対して高いレジリエンス(強靭性)を保持していること。
7.多様な主体の参画
地域住民のみならず、多様な主体の参画による自主的な取組を通じた地域の資源を管理する仕組みにより、独創的な農林水産業システムを次世代に継承していること。
8.6次産業化の推進
地域ぐるみの6次産業化等の推進により、地域を活性化させ、農林水産業システムの保全を図っていること。
日本農業遺産-農林水産省 より編集部作成)

以上8つに加え、農林水産業システムを保全するための保全計画を作成することが求められます。

日本農業遺産の認定地域では、認定を契機として様々な取り組みが行われています。例えば、日本農業遺産に認定されている福井県西部の三方五湖では、漁業の担い手の育成や食文化の継承へ向けたイベントや説明会、三方五湖で獲れた水産物を使った新メニューの作成を推進しました(三方五湖の汽水湖沼群漁業システムー日本農業遺産)。

日本農業遺産に登録されている水産地域3選

日本農業遺産には、令和5年1月現在で24地域が認定されています。そのなかから代表的な水産地域を3か所紹介します。

三方五湖の汽水湖沼群漁業システム

汽水五胡でのシステムの成り立ちは江戸時代に遡ります。塩分濃度の違う5つの湖はそれぞれの生物多様性を生み出しています。三方五湖で獲れる若洲うなぎシジミは日本最高級の汽水産物として三方五湖の漁業価値を高めており、現代でも漁業者や地域住民、多くの観光客に親しまれています。

三方五湖(提供:PhotoAC)

三方五湖のうち三方湖で行われる「たたき網漁」は冬の風物詩としても有名です。この漁は、水面を叩くことで水温が下がって湖底で休んでいる魚たちを起こして網に追い込む漁法です。これが「取りすぎない漁法」として評価されました。

(三方五湖の汽水湖沼漁業システムー農林水産省)

造船材を算出した飫肥(おび)林業と結びつく「かつお一本釣り漁業」

九州南部の宮崎県に位置する日南市は、海に面した小さなまちです。この地域ではかつお一本釣り漁業を軸にしたシステムが形成されています。遡ること江戸時代、紀州藩(現在の和歌山県和歌山市)から当地域につたわったのが「かつお一本釣り漁業」。カツオの資源を守ることを優先した伝統漁業で、現代まで盛んにおこなわれています。

宮崎県日南市 目井津港(提供:PhotoAC)

日南市の特徴は市域7割を占める人工飫肥(おび)林。飫肥杉は造船材に特化しており、かつお一本釣り漁業と共に発展しました。この飫肥杉林から海へ流れ出た栄養塩が豊かな漁場を産み出しています。かつお一本釣り漁業を核とした循環が評価され、日本農業遺産に認定されました。

造船材を産出した飫肥(おび)林業と結びつく「日南かつお一本釣り漁業」-農林水産省

森・里・湖(うみ)に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム

日本で一番大きい湖として有名な琵琶湖。ここには多くの在来種が生息しています。ここで独自に発展した漁がえり漁。これは、湖岸から沖合に向かって矢印型に網を張り、湖岸に寄ってきた魚をつぼと呼ばれる部分に閉じ込めて捕獲する漁法です。鎌倉時代には既にえりの設置の制限など社会的な仕組みが築かれており、その動きは現代の資源保全や漁業調整の礎となっています。

琵琶湖 えり漁の様子(提供:PhotoAC)

漁獲された湖魚はなれずし等に加工され、重要な保存食となってきました。また、客人をもてなすためのご馳走や祭礼のお供えとしても用いられており地域住民にとっては欠かせない水産資源です。こうした食文化は漁業や農業を受け継ぐ精神文化的な基盤を作り出したと言われています。

琵琶湖システムは、令和4年7月に世界農業遺産にも認定されました。

(森・里・湖(うみ)に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム-農林水産業)

日本の伝統を守るために

伝統的な農林水産業は、失われてしまえば再度復活することは難しく、今後も担い手の確保や環境の保全に積極的に取り組んでいくことが大切です。人間が作り出したこのシステムもいわば自然のうち。伝統的な活動は、もちろんここに認定されたものだけではありません。ひとりひとりが身近な伝統に気付き、意識して次世代に繋いでいくことが大切なのではないでしょうか。

(サカナト編集部)

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