地球と生命の誕生から現代、そして予想される未来まで──『青の王国 BlueNation年代記』(しおだまりん(2025)、たこのまくら書店)は、海中絵本&漫画作家のしおだまりん氏が自主制作した、172ページに及ぶ長編SF漫画です。
舞台は、太古から続く海の世界=青の王国(BlueNation)。約46億年前の地球誕生から、時代ごとに変化する海中の様子と、生きものたちの物語を壮大なスケールで描き出します。
作者のしおだまりん氏はこれまでにも海を舞台にした作品を発表。代表作には、ユニークなイカたちがレースを繰り広げる絵本『イカイカレース』(2022、たこのまくら書店)や、不思議な海めがねを手にした少女の海中冒険を描く『まほうのうみめがね』(2019、石田製本株式会社)があります。
海の主役は変わり続ける──命をつなぐ多様性
『青の王国 BlueNation年代記』の物語は2009年、漁師の祖父に育てられた少女・凪沙が海に潜る場面から始まります。
視界いっぱいに広がる、多様な生きものが息づく海──その美しい情景の中で、「ようこそブルーネーションへ」というナレーションが響きます。
章が変わると、舞台は一気に太古の海洋世界へ。まるで大作映画の幕開けを思わせる導入に、胸をわしづかみにされます。
古代から現代まで、「青の王国(Blue Nation)」の悠久の歴史が紡がれていきます。

描かれるのは、「強者だけが生き残る」という単純な生存競争ではありません。古代の巨大無脊椎動物から節足動物、強い顎を持つ魚類など、海の主役は幾度も交代してきました。その背景には、大陸移動や気候変動に加え、大規模な火山活動や隕石衝突といった地球規模の変動があります。
どれほど栄華を誇った種も、環境の激変に適応できなければ簡単に姿を消す。そして、そんな海で生き残ってきたのは、形も暮らしも異なる多様な命でした。
物語はその歴史をたどりながら、「多様性こそが命をつないできた」というテーマを静かに浮かび上がらせます。
後半では舞台を現代に移し、大学生となった凪沙の目線から、今抱える環境問題と予想される未来にも踏み込んでいきます。難しい題材でありながら真正面から描き切り、作品の芯をいっそう際立たせています。
環境問題に関心はあっても、何から意識し、どう行動を起こせばいいのかわからない──そんな方の背中を静かに、しかし確かに押してくれる一冊だと思います。
壮大な海洋環境史を身近にする“遊び心”

特徴をとらえつつ、ポップで生き生きとしたタッチで描かれる沢山の生きものたち。それらを眺めるだけでも楽しい一冊です。
さらに本作はSF作品ということもあり、生きものたちが「話す」のも特徴の一つ。随所にちりばめられた彼らの台詞は、ときに微笑ましく、ときに切実で、たとえ初めて知る生きものであっても不思議と親近感を抱かせます。おかげで、壮大な海洋環境史というテーマもぐっと身近に感じられるのです。
こうした遊び心あふれる表現と壮大な物語、そしてページごとに広がる発見。読み終えたときには、生きものへの畏敬と、海や環境への関心がきっと深まっているはずです。
海や生きものが好きな方はもちろん、自然環境や生物多様性に関心のある方にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。作者であるしおだまりんさんのXアカウントでは漫画の冒頭が試し読みできるので、気になった方は、ぜひチェックしてみてください。
(サカナト編集部)